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トレンドマイクロのチェンCEO 「当社から他社製品に乗り換えるユーザーも出てくるだろう。しかし、ユーザーにはもう一度チャンスをいただきたい」。トレンドマイクロのエバ・チェン代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)が、4月23日にウイルス対策ソフト「ウイルスバスター」向けパターン・ファイルの不具合で大規模なパソコン障害が発生した件(関連記事1関連記事2)で、急きょ来日。4月26日に開いた謝罪会見で、声を震わせながら冒頭のように語った。

 黒いスーツをまとい、うつむき加減で会見場に姿を見せたチェンCEOは、「社会インフラに障害をもたらし、多くの企業、個人ユーザーにご迷惑をお掛けしたことを申し訳なく思います」と謝罪した。その姿からは、常日ごろの自信にあふれた様子はみじんもうかがえなかった。続けて、「今回の件で、我々トレンドマイクロはただウイルスを駆除すればよいのではなく、ビジネスや社会インフラを保障することが求められているのだということを痛感した」と語った。

 今後の対応については、「不具合を生じた最後のパソコンが復旧するまで、手を緩めずに対処していきたい。パターン・ファイルの作成・配信プロセスを見直し、品質を高めていきたい」と話した。

障害が発生した企業は652社に

 トレンドマイクロはこの記者会見で、パターン・ファイルの不具合による障害が発生した23日8時から26日14時までの問い合わせ件数を報告した。個人ユーザーから32万6746件、企業ユーザーから3万1265件の問い合わせを受けたという。「個人ユーザーは通常時の10倍。企業ユーザーは通常時の2~3倍の件数」と、大三川 彰彦日本代表は説明する。

 加えて、障害が発生した企業数は652社に上ることを明らかにした。内訳は、トレンドマイクロが直接契約している企業ユーザーが115社、パートナ企業と契約している企業ユーザーが537社。うち6社は現在も復旧作業中だという。

 同社は今後の改善策として、パターン・ファイルを作成・配信するプロセスを変更すると発表した。従来のプロセスでは、複数のテストを担当者が分担して実施していた。その結果をテスト担当者の一人がとりまとめ、「レビューア」と呼ばれるチェック担当者に報告。レビューアはその報告を受けてパターン・ファイルを配信する。実質的に、すべてのテストを実施したかどうかをチェックする機能はなかった。

 今後は、一つのテストを複数の担当者が実施し、テストの漏れをなくす。加えて、一つのテストが終了するたびに、レビューアが逐一その結果をチェックする。またテスト項目も増やす。さらに、新しいプロセスが守られているがどうかを定期的に監査し、プロセス順守を徹底させる。

 「新しいテスト・プロセスは、これまでよりも20分程度時間を要する。今後、テストの自動化や精度向上を進め、作業時間を短縮したい」とチェンCEOは説明する。この新しいパターン・ファイル作成・配信プロセスは、すでに実施しているという。

 同社はまた、今回の障害に対する経費が3億円になることも明らかにした。ここには修復ツールを配布するためのCD-ROM作成費や、サポート・センターの人員増強に伴う人件費、個人ユーザーの障害をオンサイトで復旧するための人件費などが含まれる。

 最後に、チェンCEOは今回の件の処分として、自身に対して「すべてのパソコンが復旧するまで、月給を594円とする。594は今回の障害を引き起こしたパターン・ファイルの番号。自分への戒めとしてこの数字を選んだ」と説明。さらに、「フィリピンのマニラでパターン・ファイルを作成・配信しているラボの責任者であるオスカー・チャン上級副社長は50%の減俸に処した。さらなる処分は、事態が収拾してから検討する」とした。

福田 崇男=日経コンピュータ