「いまの若いプロジェクト・マネジャ(PM)は不遇だ。全力を挙げて取り組んでも、それが成功につながらない状況に置かれたマネジャがたくさんいる」。日本IBMでジャックスやJAL(日本航空)/JAS(日本エアシステム)統合などのビッグ・プロジェクトを仕切ってきた岡村正司氏は、現状をこう心配する。岡村氏は現在PMリサーチ代表取締役として、PMの教育に力を注いでいる。

 岡村氏は現在PMの抱えている苦悩として、以下の4点を指摘する。

1.顧客のプロジェクトマネジメント能力が落ちている

 顧客側のプロジェクト推進能力が落ちているため、ベンダー側のPMに過大な負担が生じている。

2.所属する組織(企業)の支援を得るのが困難

 そうした過大な負担を、別の経験豊かなPMがバックアップするような組織的な仕組みがあればよいのだが、それがない場合が多い。

3.PMを支えるスタッフが足りない

 特に大規模プロジェクトでは、スタッフ的な仕事をするプロが欠かせない。例えば、成果物の定義など開発標準をプロジェクトの特性に合わせて作成するスタッフ。あるいはプロジェクトマネジメント・システム(参考記事)を整備するスタッフなどだ。しかしこうしたノウハウを持った人材が育っておらず、結局PMに負担がかかる。

 加えて、プロジェクトのメンバー間でコミュニケーション・ギャップが生まれている。マネジャ自身はプロジェクトマネジメントの知識体系である「PMBOK」の知識を身に付けつつあるが、他のメンバーがPMBOKを知らない。このため、特定の言葉を違った解釈で理解するメンバーが続出。以前よりも逆にトラブルが増えている。岡村氏は「PMBOKは、すべてのエンジニアに必須の知識として教えるべき。知っておいて今後決して損はしない」と提言する。

4.求められる能力や責任に対して、報酬が安すぎる

 PMに求められる能力は幅広く、しかも責任が重い。ところが、「金がすべてではないにしても、現状のPMの報酬は求められる能力や責任に比べると安すぎる」と岡村氏は話す。そんな状況を反映してか、PMになりたがる人材が減っているという。

 「本来PMはコンサルタントと同じように、成果に応じてきちんとした対価をもらえる立場にあるべき」と岡村氏は訴える。しかし現状では、必ずしもそうはなっていない。「PMの仕事は確かに大変。優秀な人材を呼び込むためには、成果に見合うだけの報酬をもらえる、という動機付けが必要だ」(岡村氏)。

 岡村氏のオーストラリアの知人で40代前半のPMは、ある大プロジェクトを成功させて、日本円で約1億円の収入を得たことがあるという。岡村氏は「国内外のインセンティブ(成功報酬)の格差は、少なく見積もっても10倍は違う」と話す。

 最後に岡村氏はPMの育成について、「体系的な教育と仕事のアサイン、現場を支援する体制、報酬制度など、複数の面からのアプローチが欠かせない」と提言する。

高下 義弘=日経コンピュータ