「リッチ・クライアントは普及期に入りつつある。いままさにブレイク前夜。今年後半は一気にリッチ・クライアントが広がるだろう」。マクロメディアの井上 基社長は日経コンピュータ記者と会見し、リッチ・クライアントの定着状況について冒頭のように語った。リッチ・クライアントとは、主に使い勝手を追求したWebアプリケーションのクライアント技術を指す。

 リッチ・クライアントをマクロメディアはRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)と呼び、同社のWeb技術「Flash」を業務システムの分野に広げようと積極的に動いている。

 まずマクロメディアは昨年末にFlashアプリケーションの実行環境「Flex 1.5」を投入した。FlexはFlashアプリケーションの実行環境で、独自の開発言語「MXML」で書かれたプログラムを動かす。MXMLの文法はXMLに準じており、「企業の業務システムの画面や、電子商取引サイトの画面を開発するのに適したものだ」(水嶋ディノ エンタープライズマーケティングマネジャー)という。

 このほかにマクロメディアは、MXMLのための開発ツール「Flex Builder」を用意した。 既存のFlashアプリケーションの開発ツールだった「Flash MX」が、Flash MXはWebデザイナーがアニメーションを作るためのツールとして設計されており、業務システムの画面を開発するには適していなかった点を改善した。マクロメディアの井上社長は、「FlexとFlex Builderによって、企業システムへのFlash適用はどんどん広がっていくはずだ」という。

 国内でも現在、10社の企業でFlexを使ったアプリケーションの構築が進んでいるという。水嶋マネジャーは「電子商取引サイトはもちろん、企業システムのクライアントとしてFlashを使う案件も含まれている」と説明する。

 マクロメディアはFlashの業務適用について、外部のシステム・インテグレータとの関係強化にも取り組んでいる。その好例がNECグループのNECシステムテクノロジーとの協業だ。同社は、Flashの業務システム用の部品集「iBizBlock」を提供している。井上社長は「今後もシステム・インテグレータとの協業を進めていく」と語る。

 ただ、マクロメディアの戦略が万全なわけではない。いくつかのシステム構築ベンダーからは、マクロメディアのサポート体制について不満の声が挙がっている。例えば「企業システムにFlashを使っていく上では、マクロメディアの技術支援が不可欠。しかし現状では技術情報が少なかったり、技術に関する質問への回答が遅かったりする。本格的な業務アプリケーションを構築して、顧客にFlashを納める場合には不安が残る」といったものだ。

 この点について井上社長は、「問題がどこにあるのかは認識している。従来はWebデザイナーに向けたサポートが中心だったが、企業システムの開発者に向けたサポート体制を早急に構築する」。とコメントする。まず「現状10人以下である技術サポートの部隊を、年度内に早く質・両共に拡充する」と話す。今後は、Flashを企業システムに適用していくうえで、設計方法や開発手法の面からアドバイスするコンサルタントも増やす。「いまは1人、2人というレベルだが、これも近々増員する」(井上社長)。

 リッチ・クライアントの“本命”を標榜する企業には、マクロメディアのFlashのほか、アクシスソフトの開発/実行環境「Biz/Browser」、アドビシステムズの「Acrobat」、カールの「Curl」が名乗りを上げており、稼働例を少しずつ増やしている。また従来のJavaや.NET技術も、リッチ・クライアントを実現するための機能を拡張しており、マクロメディアの立場は盤石とは言えない。

 井上社長はこうした競合の存在について「マーケットが活性化するので、非常に歓迎する」と余裕の構えをみせる。「Flashは10年間インターネットの世界で生き残ってきたプラットフォーム。私はFlashが企業システムの世界でも支持されるという絶対の自信を持っている」。

(高下 義弘=日経コンピュータ)