三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスは2月18日、今年10月の経営統合に伴う傘下の銀行・信託銀行・証券会社のシステム統合方針を発表した。最大の注目である東京三菱銀行とUFJ銀行のシステム統合は、東京三菱銀行のシステムを採用する「片寄せ」の方針を決めた。東京三菱銀行のシステムを基に、UFJ銀行のシステムが持つ先進機能を追加開発して盛り込む。
東京三菱銀行とUFJ銀行が合併して誕生する「三菱東京UFJ銀行」は、大きく2段階でシステム統合を進める。まず今年10月の経営統合時点で、海外系、市場系、証券系システムを東京三菱銀行側に一本化する。勘定系は東京三菱銀行とUFJ銀行のシステムを並存させるものの、両行のATM(現金自動預け払い機)からどちらの勘定系システムにもアクセスできるようにする。具体的には、それぞれの銀行のATMと勘定系システムの間に、取引内容に応じてデータの送付先を振り分けるシステムを構築する。
これにより、東京三菱銀行とUFJ銀行のどちらのATMからでも、双方の銀行口座に対して預金の入出金や振込ができるようになる。「フロントエンド振分方式」と呼ぶこの方式は、二つの勘定系を直接つなぐ「リレー・コンピュータ方式」に比べて、勘定系への手直し量が少なく済む。
その後第2段として、2007年12月までに勘定系と情報系を東京三菱銀行のシステムに統合する。勘定系システムでは、統合作業と並行して、24時間稼働対応や口座振替の負荷分散、テレホンバンキングといったUFJ銀行のシステムが持つ先進機能を、順次東京三菱銀行のシステムに追加していく。
三菱東京フィナンシャル・グループの畔柳信雄社長は会見の場で、「システム統合は、顧客の利便性とシステムの安定性、統合作業の安全性を考慮した上で、総合的に判断して決めた」と説明した。「勘定系は先進的なUFJ銀行のシステムを残すべきなのでは」との見方に対しては、「勘定系だけ見ればそういう声が上がるかもしれないが、システム全体で見れば東京三菱銀行の方が優れている面もある」とした。
利便性や安定性、安全性を最優先する統合方針に基づけば、どちらか一方のシステムを全面的に残して足りない機能は適宜開発していくのが最も効率的で、リスクも低いのは納得できる。UFJホールディングスの玉越良介社長も、勘定系や情報系、海外系といったシステムごとに、優れたシステムを選択するのは「システム全体の親和性を確保するのが難しい」と話した。
ただ、こうした両行の説明を聞くと、昨年7月の経営統合に向けた発表の時点から7カ月もかけてシステムの優劣を比較する必要があったのかといった疑問がわく。そもそもシステムは経営の仕組みや事務の流れを表すものであり、両行の経営状況から考えれば、当初から東京三菱銀行のシステムを残す決断ができたようにも思える。こうした問いに畔柳社長は、「確かにもっと早く決められたかもしれない」と認めた。ただ、統合方針の検討に時間をかけたことがシステムの現場にとってマイナスになるようなことはないと、自信を見せる。「統合作業はこれまで計画通り進めてきている。スケジュールに問題はない」(同)。
東京三菱銀行とUFJ銀行は、日本IBMと日立製作所を「2大キーベンダー」と位置付け、両社の協力を得ながら統合を進めていくと発表した。このほか、三菱信託銀行とUFJ信託銀行が合併して誕生する「三菱UFJ信託銀行」のシステム統合は、国内勘定系・受託財産運用業務・不動産業務のシステムに三菱信託銀行のシステムを、年金制度管理業務・証券代行業務のシステムにUFJ信託銀行のシステムを、それぞれ採用することを決めた。ITベンダーは銀行と同様に、IBMと日立を「キーベンダー」と位置付ける。
三菱証券とUFJつばさ証券が合併して誕生する「三菱UFJ証券」は、ホールセール(法人向け)業務のシステムに三菱証券のシステムを、リテール(個人向け)業務のシステムにUFJつばさ証券のシステムを、それぞれ使う。ITベンダーは野村総合研究所と日立を「2大キーベンダー」とする。
合併に伴うシステム統合費用は、1500億~2000億円程度の見込み。すべてのシステム統合が完了した後は、年間800億~900億円(2008年度)のコスト削減を目指す。統合費用は2~3年で回収できる計算になる。なお、UFJ銀行は日立との間で、勘定系システムのアウトソーシング契約を結んでいる。勘定系の片寄せに伴い、この10年契約は途中解約することになる。解約に伴う違約金といった諸条件については、「今後詳細を検討していく」(玉越社長)。