ジャストシステムは2月1日、特許権侵害で松下電器産業に敗訴したこと(本誌既報)について、「非常に不服であり、即刻、東京高裁に控訴する」と記者会見の席で断言した。

 判決を受けてジャストシステムで法務を担当する内藤興人理事は、「今回の判決が通るのであれば、Windowsの機能自体が松下電器の特許に抵触していることになり、全世界で利用しているWindowsに問題がおよぶことになる」と主張した。

 判決の対象になった機能は、ワープロ・ソフト「一太郎」、グラフィック・ソフト「花子」のヘルプ表示の機能。具体的には、ヘルプ・アイコンを指定し、別のアイコンの位置にドラッグすると、そのアイコンの機能が表示される「バルーン・ヘルプ」と呼ぶ機能である。内藤理事が「Windowsの機能自体が松下電器の特許に抵触する」と話す理由は、「バルーン・ヘルプの表示自体はWindowsの基本機能を利用しているため」(内藤理事)だ。

 そして判決のポイントは、「ヘルプを示す図柄として描かれているマウスのイラストに対する解釈」(内藤理事)だ。一太郎のバージョン6までは、ヘルプの表示機能は“?”マークだけで表示されていた。だがジャストシステムによると、一太郎のバージョン7以降に出荷された両ソフトは、ヘルプを示す表示が“?”と“マウスのイラスト”になった(写真)。

 “?”と“マウスのイラスト”の組み合わせが、「アイコンであるか」というのが、訴訟の焦点の一つとなった。松下電器の特許が、「(前略)機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に記述させ(後略)」といったような記述になっているためだ。今回の判決ではマウスのイラストは「アイコンである」となったため、ジャストシステム側が敗訴した。

 ジャストシステムは昨年後半に、「別のソフトだが同じ機能を巡った裁判で、松下電器に勝訴しており、松下電器は控訴していない。その時とヘルプの表示で異なるのは、ヘルプを示す記号に、マウスのイラストを加えた点だけ。なぜそれだけで特許権侵害になるのか分からない」と内藤理事は強調する。

 加えて、内藤理事は「松下電器の特許は、ワープロ専用機に対して出願したもの。パソコン用ソフトに、専用機の特許が適用されるのは認められない」と強調した。

 今回の判決ではジャストシステムに対し、一太郎と花子の製造中止と廃棄を命じる仮処分が決定している。だが、「仮執行はされていない上、当社がすぐに控訴するので、両製品の販売は継続する。2月10日に発売予定の一太郎の新バージョンも発売し、1年間で100万本の出荷を見込んでいる」と鍋田毅 広報IR室長は説明する。

 仮にジャストシステム側の敗訴が確定した場合、ジャストシステムは一太郎バージョン7発売以降に出荷した、一太郎、花子の両製品の在庫を処分しなければならない。その費用は、「2000万~3000万円程度」(鍋田室長)である。ジャストシステムは、「両製品を利用しているお客様や、購入するお客様に迷惑がかからないようにする」(鍋田室長)と話す。

島田 優子=日経コンピュータ