「互いに異なる両社の強みを生かせば、パソコン事業のさらなる発展が可能だ」。米IBMでパソコン事業を率いるスティーブ・ウォード シニア・バイス・プレジデント(写真)はこう強調する。ウォード氏は、米IBMが今年第2四半期をメドにパソコン事業を中国の聯想集団(Lenovo Group)に売却するのに伴い、聯想のCEO(最高経営責任者)に就任する人物だ。

 冒頭のコメントは、「米IBMのパソコン事業はここ3年赤字続きと聞いているが、新会社は収益を上げることができるのか」との記者の質問に答えたもの。「IBMはノート・パソコンに強く、大規模企業を中心に、全世界でビジネスを手がけている。これに対して聯想の強みは、デスクトップ・パソコンであり、成長著しい中国での実績だ。互いに強みが異なるので、相乗効果を発揮できる」と言う。

 ウォード氏は、「中国やインド、ロシアなど、特に今後の成長が見込める市場への積極投資を実施していく」と説明する。ただ、具体的な投資金額や黒字化の達成年度、収益目標は明らかにしなかった。

 記者会見の席上、ウォード氏は「(事業売却は)両社にとってハッピー」、「顧客やすべてポジティブに反応してくれている」と繰り返した。同氏に限らず、IBMのパソコン事業関係者は 昨年12月8日に事業売却を発表して以来、「製品の品質やサポート体制は今までと変わらない」、「特に品質は今後も最高水準を維持する」、「新技術への投資は引き続き積極的に実施していく」、「営業活動は全世界で継続する」など、事業売却による顧客や従業員の混乱を抑えるための説明を繰り返し積極的に続けている。

 だが、果たしてそんなに都合よくいくものだろうか。品質確保や研究開発、営業活動は、どれもお金がかかることばかりだが、米証券取引委員会(SEC)によれば、米IBMのパソコン事業はここ3年間利益が出ていなかった。赤字の事業部門がさらに投資を増やしたところで、収益を上げられるのか。聯想の今後の実績を見てみないと、何ともいいようがない。

 IBMのパソコン事業売却は、ノート・パソコン「ThinkPad」やデスクトップ・パソコン「Think Centre」、モニターの「ThinkVision」といった製品の生産、販売、「ThinkVantage」と呼ぶパソコン関連技術の研究など、パソコン関連事業のすべて。ただし、流通業向けにPOS(販売時点管理)レジスタなどを提供する「リテール・ストア・ソリューションズ部門」と、プリンタ関連の「プリンティングシステムズ部門」は売却の対象外であり、これまでどおりIBMに残る。聯想への売却金額は約12億5000万米ドル(約1300億円)。売却により、聯想は世界第3位のパソコン・メーカーになる。

 事業売却に伴い、IBMでパソコン事業に携わっていた約1万人の従業員は聯想に移籍する。日本IBMでは、商法の会社分割制度に従い、パソコン事業に従事する約600人を新設する聯想の日本法人に移管する。移籍する600人は、パソコン事業の経営、営業・マーケティング、研究・開発要員。大和研究所に所属するノート・パソコン「ThinkPad」の研究・開発者も含む。聯想日本法人のCEOには、日本IBMのパソコン事業責任者である向井宏之PC&プリンティング事業部長が就任する。

大和田 尚孝=日経コンピュータ