富士通の黒川博昭社長は12月9日、あらためてパソコン事業への意欲を示した。米IBMが米国時間12月7日、パソコン事業を中国の聯想集団(Lenovo Group)に売却すると発表したことを受けてのものである。同社が東京・浜松町に設置したハード/ソフト製品の検証施設「Platform Solution Center」の開設にあたって開かれた記者発表会で発言した。

 黒川社長はまずIBMの売却発表について、「IBMの経営方針ならば、その(=パソコン事業売却の)ディシジョン(意思決定)はあり得るだろう。米IBMは利益や成長性についてこだわりのある経営をしている」と理解を示す。

 その一方で、「富士通は米IBMとは企業のサイズが一回りもふた回りも小さい。同じやり方では市場で通用しない。だから当社はIBMとは違ったビジネスモデルで取り組む」とする。

 利幅が薄いと言われるパソコン事業を続ける根拠については次のように説明する。「当社は目指すべきソリューションのあり方として『ユビキタス』を掲げている。ユビキタスを実現するうえで、パソコンや携帯電話は欠かせない要素だ。それに、企業を対象にした『1万台のビジネス』と、個人を対象にした『100万台のビジネス』は、モノづくりやマーケティングのやり方が全然違う。100万台のビジネスのノウハウは確保しておきたい」。

 さらに黒川社長は今後に向けた方針として、「歯を食いしばってでもパソコン事業のノウハウを蓄積していく。失敗するかもしれないが、次の展開には(多少の失敗は)必要だ」と明言。「私は社内に対しては『利益が出ないなら(パソコン)事業を止める』、と厳しいことを言っているが、やはりパソコン事業は持っていたい」と続けた。

 黒川社長のこうした方針の裏にあるのは、以前から黒川社長が打ち出しているモノづくりへのこだわりだ。「品質・コストの両面を追求し、売れる製品をきちっと作れば、必ず顧客に評価される。例えば当社のパソコンの品質は中国でも評価されている。当社の企業向けノートパソコン(FMV-LIFEBOOK)については、中国のいろんなところ(=販売代理店)から売らせてくれ、という話が来ている」とアピールする。「企業向けパソコンでは特に品質が要求される。不具合が起きたときに発生する、復旧のための人的コストは無視できないほど大きいからだ」(黒川社長)。

(高下 義弘=日経コンピュータ)