米IBMと富士通が11月30日に発表(発表資料)した、自律コンピューティング技術の共同開発について、両社幹部に狙いや意図を聞いた。米IBMの代表は、アラン・ガネック オートノミック・コンピューティング担当バイスプレジデント(写真左)、富士通の代表は棚倉由行 経営執行役 ソフトウェア事業本部長(写真右)だ。

――今回の提携の範囲を改めて教えてください。

棚倉:情報システム全体を統合管理するための自律コンピューティング技術です。これまで、自律コンピューティングというと、サーバーやストレージ、ネットワーク機器などのハードウエア、データベース・ソフトやWebアプリケーション・サーバーなどのミドルウエア、といった製品ごとに実装される機能でした。それぞれの製品が自動的に障害を検知し、障害を修復する仕組みを実現できます。ただ、システム全体を自律コンピューティングに対応させるには、製品同士の連携が必要で、事実上、実現は困難でした。今回の提携の目的は、そうした製品同士の組み合わせから生じる複雑性を解消することにあります。例えば、障害時における問題個所の特定などを自動化することを目指します。

ガネック:具体例を挙げましょう。今回の提携内容の一つに、イベント・ログのフォーマットの標準化があります。現状では、ハードウエア、ミドルウエアの種類ごとにイベント・ログの記述の仕方は異なります。さらに、サーバーだけとってみてもメーカーが違えば記述方法が違います。障害原因を自ら特定し、自己修復する自律型のシステムを実現するためには、障害原因の判断基準となるイベント・ログの記述の仕方がバラバラでは手に負えません。そこで共通の記述仕様を策定し、標準化団体のOASISに提出したうえで、標準仕様として推奨していきます。

――ガネック氏にお聞きします。提携相手になぜ、富士通を選んだのですか。

ガネック:ハードウエア、ミドルウエアなど、IBMと同様に幅広い製品ラインナップを持っているからです。多様な製品を組み合わせることによる複雑性の問題をよく理解している。最終的に標準化団体に提出するとしても、まず問題意識の近い両社が共同で議論のたたき台となる仕様を策定するのがよいと判断しました。自律コンピューティング分野では全世界で約40社と協業関係にありますが、富士通との提携は特別重要だと考えています。

――棚倉氏も同様のご意見ですか。

棚倉:その通りです。お互い、メインフレームの開発で培ってきた技術をオープン系システムの統合に利用しようとしています。まったく同じではないけれど、共通の視点を持っているといえます。

――情報システム全体における、自律コンピューティングは今後どのように発展していくとお考えですか。

棚倉:富士通は今後3年間で、システム全体の自己管理実現に向けた技術の「大枠」が完成するとみています。その間に、社会インフラとなるシステムなど、非常に重要な情報システムへの適用が始まると思います。しかし、その時点での技術は完ぺきなものではないでしょう。実績を積むにしたがって洗練されていき、より一般的な企業に普及するのは今から4~6年後になると思います。

ガネック:今後2、3年のうちに、先ほどのイベント・ログの記述方式に加え、各種設定の仕方の標準化、システム管理者に向けたユーザー・インタフェースの標準化が終わるでしょう。急激に何かが変わるというよりは、徐々に進化していくと思います。

――今後数年間で両社が固める仕様は、それぞれの製品やインテグレーション・サービスの中核となる部分といえます。やはり、この分野の標準策定をリードすることは、ビジネス的な観点でみても重要なのでしょうか。

ガネック:もちろんです。自社が策定した仕様を標準にしたいと思っています。富士通と共同で仕様を策定することは、仕様の提出先である標準化団体に対しても大きな影響があると考えています。

――富士通は、NECや日立製作所とともに、経済産業省が主催する「ビジネスグリッド コンピューティング プロジェクト」にも参加しています関連記事)。この中で3社が共同開発していく仕様は、かなり今回の提携と似通っていると思うのですが。

棚倉:重なる部分はあると思います。しかし、どちらで共同開発した仕様でも、一度標準化団体に提出されれば、その後の議論の内容は公開されます。そのため、二つの提携内容は矛盾するものではなく、協調・調整できると考えています。

聞き手は矢口 竜太郎=日経コンピュータ