富士通と米シスコシステムズは12月6日、ルーター/スイッチ(以下、ルーター)分野での戦略的提携を発表した。両社は今後、通信事業者の基幹網向けルーターで使うOS「IOS-XR」の今後のバージョンの開発、機能強化を共同で行う。IOS-XRはこれまでシスコが単体で開発していたルーター向けOSで、同社製の最上位ルーター「Cisco CRS-1」に搭載されている。共同開発したOSを搭載したルーターが市場に出るのは2005年春になる見込みだ。

 この提携は、富士通のルーターの開発費を削減してルーター関連事業を黒字にしたいという思惑と、シスコの日本の通信事業者向けの事業を拡大したいという思惑が合致した結果。富士通の伊東千秋取締役専務(写真左)は、「ルーター関連の売り上げが400億円しかなく、自社開発を続けると、この規模での黒字化は厳しい。開発費に100億円以上かかっていたからだ。開発費の削減は急務だった」とする。

 特に、通信事業者が求める機能や品質を実現するのには多大なコストがかかり、富士通は苦しい状況にあった。「それでも歯を食いしばって開発を続けてきた」(富士通の黒川博昭社長・写真中)が、さすがに限界に達した。伊東専務は、提携を受けた開発費削減策の一つとして、「開発要員をユーザー企業のサポート部隊に回す」ことを挙げる。

 一方のシスコは、富士通が持つ日本の通信事業者特有の機能を実現するための技術やノウハウ、通信事業者とのパイプなどを手に入れる。シスコ日本法人の黒澤保樹社長(写真右)は、「高信頼性の技術、厳しい品質管理体制といった分野における富士通のノウハウを吸収する」と語る。シスコ日本法人では通信事業者向けの事業が年間売り上げの半分にまで達しており、開発・販売体制の強化が急務だった。

 両社は提携を受けて、3つの共同チームを新設する。品質管理を担当する「共同品質チーム」、マーケティングを担当する「プログラム・オフィス」、開発を担当する「共同開発チーム」だ。伊東専務は、「自社の開発要員を20人ほどシスコの開発部隊に合流させる」という。

 富士通は2005年春にも製品化されるIOS-XR搭載ルーターを「Fujitsu-Cisco」ブランドで販売する。ただし、このブランドは富士通が日本市場で販売する場合に限られる。伊東専務は、「富士通による海外販売については、具体的なことは決めてない」という。

 今回の提携範囲は基幹向けルーターだけに限らない。富士通は企業などで使う中規模向けルーターについてもシスコ製品の取り扱いを強化する。伊東専務は、「次のステップでは、中規模向けルーターを共同開発もしくはシスコの製品に統一することも考える」とする。ただし、IP-PBXに関してはそれぞれ独立して事業を続ける。「電話のIP化は進むことは間違いないが、PBX自体の需要はなくならない。富士通はPBXを使ったIP電話にこだわりを持って事業を続ける」(伊東専務)という。

 この提携による効果として富士通は「2005年度には黒字、3年後に売り上げを1.5倍にする」(伊東専務)、シスコは「国内シェアを10%上げる」(黒澤社長)と目標を掲げる。

鈴木 孝知=日経コンピュータ