「システム構築において、要求が正しくシステムに反映されていないためにトラブルが生じるケースが多い。要求をシステムの仕様に正しく落とし込むために、QFD(品質機能展開)が使えるのではないかと考えている」。武蔵工業大学工学部システム情報工学科の横山真一郎主任教授は、このように話す。

 QFDは、1960年代に赤尾洋二氏と水野滋氏が作成した、顧客の要求を満たすためには何が必要かを分析する手法。主に国内外の製造業が、新商品やサービスの開発、今後投資すべき技術分野の特定、品質管理などの分野で利用している。プロジェクトマネジメント学会の役員を務める横山主任教授は、同学会の論文を読む中で「QFDをシステム開発で使えば、効果があるのではないか」との着想を得たという。

 QFDでは、縦軸に「顧客の要求」を、横軸に「要求を満たす商品を開発する上で必要となる技術特性」を列挙した表を使う。まず、縦軸および横軸の項目を細分化していく。新車を開発する場合なら、縦軸に「運転しやすい」、「乗り心地がいい」などの項目が並び、横軸に「操作性」、「耐振動性」などの項目が並ぶことになる。

 続いて、縦軸と横軸の項目が交わるマス目ごとに、両項目の関連がどのくらい強いかを記入していく。「運転しやすさ」という縦軸と「操作性」という横軸が交わるマス目には、両項目の関連は強いので2重丸を記入する、といった具合だ。この作業をすべてのマス目に対して実施すれば、「顧客の要求を満たすには、どのような技術が必要か」を整理できる。技術の抜けや漏れの防止に役立てることもできる。他社の製品についても同様の表を作成し、自社の製品についての表と比較すれば、自社の強みと弱みを確認することも可能だ。

 横山主任教授が考えているのは、同じ手法を要求定義をはじめとするシステム開発の工程に応用すること。その場合は、縦軸に「顧客がそのシステムで達成したいこと(要求)」を、横軸に「そのシステムを実現する上で必要となる技術特性」を並べる。技術特性にどのような項目を挙げるかはまだ明確になっていないが、「セキュリティを確保する能力やJavaのコーディング能力のような『ベンダーが提供可能なシステム構築能力』が有効ではないかと考えている」(横山主任教授)。

 QFDをシステム開発に応用すると、「顧客がシステム化のイメージを具体的に抱いている場合は技術的な漏れがないかを調べるチェック・リストとして使える。システム化のイメージを持たないユーザーに対しては、新規システムを提案する際にに使えるだろう」と、横山主任教授はみる。現在は、「あるIT企業と共同で、どのように改良したら実プロジェクトで使えるかを検証中」(横山主任教授)。来年3月には、その成果を同大学大学院修士1年の劉 功義氏が論文にまとめる予定だ。

矢口 竜太郎=日経コンピュータ