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日立の指静脈認証装置 日立製作所は11月8日、太陽光を指に透過させて認証する指静脈認証技術を開発したと発表した。指静脈認証装置は従来、屋内でしか利用できなかったが、新技術を使えば海辺や晴れた雪山といった日差しの強い環境でも利用可能になる。日立によれば、太陽光を光源にして指静脈のパターンを認証する技術はこれが初めて。

 指静脈認証は、指の静脈パターンが個人によって異なることに着目して、個人を特定するバイオメトリクス(生体)認証技術。体内を透過する一方で、血液中のヘモグロビンに吸収される「近赤外線」と呼ぶ光を利用する。近赤外線を指に当てると、静脈パターンが現れる。そのパターンを指静脈認証用装置に付けたカメラで取り込み、あらかじめ登録された静脈パターンと照合することで、登録済みの利用者本人かどうかを確認する。

 日立は、指を専用装置の上にかざして指の静脈パターンを認識する装置の開発・製品化を進めてきた(写真)。しかし、「これまでは、パソコンの認証や部屋の入退出管理といった、強い太陽光が入ってこない屋内での利用に限られていた」(中央研究所の禰寝(ねじめ)義人知能システム研究部長)。太陽光には強い近赤外線が含まれているため、日差しが強いと近赤外線が強くなりすぎて、カメラで認識するのが困難になってしまうからだ。従来は、装置に近赤外線を出す光源を取り付け、この光源とカメラを使って静脈パターンを取り込んでいた。

 強い光がカメラに入らないようにする手段として、指をかざす部分に覆いを付けることも考えられる。だが、「装置のなかに指を入れることになり、利用者に不安感や抵抗感を与えてしまう」(禰寝部長)。そこで日立は、指をかざして認識する装置を屋外で利用できるようにする研究を、今年はじめから取り組んできた。

 今回日立は、「カメラの感度を光の強さに応じて自動的に調節できる仕組みを取り入れることで、屋外でも静脈パターンを認識できるようにした」(知能システム研究部の宮武孝文研究主幹)。従来は、カメラの感度を一定に保ち、装置に備え付けた光源の強さを自動調節することで静脈パターンを認識していた。しかし、強い太陽光の下では、備え付けの光源の強さを調整しても意味をなさない。そこで、カメラのほうを調節する形にした。ただし、太陽光が弱い場合や屋内で使う場合のために、備え付けの光源も利用できる。

 日立は2007年をメドに、今回開発した技術を使った製品を出荷する予定だ。「新技術によって、住宅や施設の入退出管理、自動車の本人確認といった用途に適用範囲を広げることができる」と、禰寝部長は説明する。まずは、自動車のセキュリティ機器への適用に取り組む。現在、指静脈認証装置の出荷台数は年間3500台程度。2007年以降は、数十万台に引き上げていきたい考え。

 日立は1997年に指静脈認証の研究・開発を開始した。指紋認証のように指紋の跡が機器の表面に残って悪用されるといった心配がないうえに、目の虹彩を使った認証と同等の高い精度で識別できるといった特徴を持つことから、日立は指静脈の認証技術の開発と製品化を進めてきた。昨年12月には、指を専用装置の中に差し込んで認証する技術を搭載した製品を出荷。今年3月には、屋内で指をかざして認証する技術を確立。昨年9月から今年7月にかけて、入退出用装置とパソコンの個人認証向け装置を製品化している。

西村 崇=日経コンピュータ