「10年前は、結婚や出産などの理由で退職する女性社員は、当社のソフトウェア事業部で年間20人いた。しかし、現在は年間3人にまで減っている。もはや、女性が結婚や出産を契機に辞めるという時代ではなくなった」。日立製作所ネットワークソフトウエア本部Java/XMLソリューションセンタの大場みち子主任技師は、こう説明する。

 大場主任技師の発言は、10月12日に情報処理学会が開催したシンポジウム「ソフトウェアジャパン2004」の「女性IT技術者・研究者の更なる飛躍を目指して」というパネル・ディスカッションで出たもの。ITベンダーで管理職の立場にいる女性IT技術者5人が、「家事や子育てと仕事の両立」、「女性IT技術者が働きやすい職場とは」といった話題について意見を述べた。

 パネラーとして参加したのは、大場主任技師のほか、日本IBM ITS事業部システム・テクニカル・サービス・センター担当の渡辺善子理事、富士通研究所ITコア研究所ソフトウエアイノベーション研究部の山本里枝子主任研究員、アディレクトBI知財開発本部の大場寧子執行役員本部長&CTO。司会を、日本IBMソフトウェア事業エマージング・テクノロジープログラム担当の田原春美部長が務めた。

 参加者のほとんどは、会社で女性IT技術者のロール・モデルを切り開いた人たち。それぞれ発言に説得力があった。「同期の男性に比べて、主任になるのは2年遅れた。しかし、差別されるのは嫌だったので、『男性の2倍働こう。少なくとも1.5倍はやろう』と心がけた」。大場主任技師は、苦労した時代をこう振り返った。

 日本IBMの渡辺理事は、同社初の女性SE。「日本IBMは外資系なので、日本の企業と比較して今は女性が働く環境が整っている。それに比べて1970年代は産休も取りづらく、苦労が絶えなかった」と渡辺理事は話す。「子供が急病の時は、マネジャや顧客と交渉し、客先から1回、自宅に帰ってまた会社に戻るということもあった」(渡辺理事)。

 しかし、渡辺理事はそんな苦労の時代も、「創意工夫を凝らして、いかにくぐり抜けるかを考える楽しさがあった」と前向きに語る。同時に、1998年にスタートした日本IBMで女性の活用を推進する組織「ウイメンズ・カウンシル」の活動を紹介した。

 富士通研究所の山本主任研究員は、「会社側の女性が働く体制は整っているのだが、保育所の整備といった行政側の体制が整っていない」と行政への要望を訴えた。「ほかの業界と比較するとIT業界は長時間労働であり、保育所の時間などを考えると育児との両立などは難しい」(山本主任研究員)。ただ、「出産してしばらくは負担がかかったが、本当にきつかったのはその時期だけ。あとは『何とか回るじゃない』と感じた」と付け加えた。

 パネラーで唯一の転職経験者であるアディレクトの大場執行役員は、「『キャリアアップを目指す』と明確に決めていない層をもっと大切にすべき」と意見を述べた。「自分のキャリアをどうしていこうかと迷い気味の女性は少なくない。そういう人でもしっかりと仕事を続けることができ、気が付くと『自分はいいキャリアを築けたじゃない』と思えるような環境を作ることも大切だと思う」(大場執行役員)。

 司会を務めた日本IBMの田原部長は、「今は多様化(ダイバーシティ)の時代。女性だから、男性だからというのではなく、いろいろな人がいてよいという考え方になってきている。なのに、今でも“女性だから”とくくられてしまいがち。みんなで、女性だからという壁を乗り越えていきましょう」と、女性IT技術者にエールを送った。

島田 優子=日経コンピュータ