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APCのダウデル会長 「ITベンダーは、コンピュータの処理能力を好きなときに好きなだけ使えるユーティリティ・コンピューティングの実現を急いでいる。電源や空調機器、ラックといったフィジカル・インフラストラクチャ(物理インフラ)を扱う当社のようなベンダーも、同様の考え方に基づいて機能拡張を進めている」。こう語るのは、UPS(無停電電源装置)大手の米APC(アメリカン・パワー・コンバージョン)のロジャー・ダウデル会長兼CEO(最高経営責任者、写真)である。

 米IBMのe-ビジネス・オンデマンド、米ヒューレット・パッカードのアダプティブ・エンタープライズなど、大手ITベンダーは相次ぎユーティリティ・コンピューティングの戦略を押し進めている。これに対し、APCなどが打ち出しているのは「NCPI(ネットワーク・クリティカル・フィジカル・インフラストラクチャ)」という概念。物理インフラの世界におけるユーティリティ・コンピューティングに相当するものだ。

 ダウデル会長によれば、NCPIは「物理インフラをモジュール化することで、必要なときに必要なだけ手に入れられるようにする仕組み」。例えばデータセンターなどで電源や空調を確保する場合、通常は最初から大型の機器を用意しなければならない。NCPIに基づく機器を利用すれば、最初は小型の機器を導入し、あとは必要に応じて増やしたり減らしたりすることが自由にできるようになる。

 ダウデル会長は、「NCPIを使えば、俊敏性(アジリティ)、低コスト、可用性を強化できる」と力説する。なかでも同氏が最も重要だと指摘するのは、ビジネスの変化に応じて柔軟に物理インフラを拡張・変更できる俊敏性。「これまでは、物理インフラの俊敏性が足りないためにビジネスの足かせになることがあった。経営者が打ち出した新施策を実現するにあたり、必要なサーバーは数日で入手できる。だが、サーバーを設置するデータセンターを整備するには、数十日あるいは数百日を要する」(同)。

 NCPIで低コストになるのは、小さな構成から始められるので、導入の初期費用を抑制できるため。導入時のコスト試算が容易になるという利点もある。「現状では、数年先を見据えてシステム規模を予測しなければならず、試算が非常に難しい」(ダウデル会長)。もう一つの可用性については、「モジュール化によって、問題が起きたポイントだけを素早く切り離す、交換するといった対策を施すことができる。障害が起きても素早い復旧が可能になる」と、ダウデル会長は語る。

 ただし、NCPIが現実のものになるのは当分先のようだ。「現在はNCPIの初期段階しか実現できていない。5年あるいは10年かけて完成させたい」(ダウデル会長)。

鈴木 孝知=日経コンピュータ