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SECの鶴保氏 独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)は9月29日、ソフトウエア工学の研究組織「ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)」の設立を正式に発表した。10月1日に活動を開始する。産官学の枠を超えて議論し、ソフト開発を効率化する工学的手法を策定していく。その成果を生かして、日本のソフト産業の国際競争力向上に寄与することを狙う。

 SECの所長には、元NTTソフトウェア社長の鶴保征城氏(写真)が就任する(日経コンピュータ既報)。センターの運営資金は経済産業省が支援する。SECのために同省が確保した予算は今年度で14億8000万円。

 「経済産業省主導のソフトウエア関連プロジェクトとして、過去にシグマ計画や第五世代コンピュータがあったが、ソフト産業への寄与という点で必ずしも成功とは言いがたい。SECはこれらのプロジェクトと何が違うのか」という本誌の質問に対し、鶴保氏は「マーケティングを徹底した点が違う。ソフト業界として最も解決が熱望されている問題は何かを把握し、それを取り上げている。現時点で、ソフト開発のあり方を何とかしたいという問題意識は日本全体で高まっている」と話す。

 SECの主な活動は、(1)エンタープライズ系ソフト開発力の強化、(2)組み込みソフト開発力の強化、(3)先進ソフト開発プロジェクトの実施、という三つの柱で進める。

 (1)のエンタープライズ系ソフト関連では、ITベンダーとユーザー企業からソフト開発プロジェクトのデータを収集し、品質や工期、生産性などの定量データを測定・分析するエンピリカル・ソフトウエア・エンジニアリングを実施する。初年度中に1000例以上のプロジェクト・データを集めることを目標に、「すでに11社から了承を得ている」(鶴保氏)。この結果を基に、標準的な見積もり手法、さらに見積もり手法を含む開発プロセス全体の標準化を進めていく。

 (2)では、組み込みソフトにおける効率的な開発手法を策定するほか、組み込みソフトの開発に必要なスキルを体系的に整理する。(3)では、(1)や(2)で策定した手法を使って、実際にソフト開発に取り組む。まず、先進的交通システムの共通ソフトウエア・プラットフォームを開発する計画である。

 当初はSECの職員(IPAの研究者および企業からの出向者)30人、外部からの参加者120人(うちエンタープライズ系ソフト関連が50人、組み込み系ソフト関連が70人)の150人体制で発足する。鶴保氏は「ベンダー、ユーザー、研究者を問わず、国内屈指の有識者を集めた」と自負する。

 ユーザー企業として清水建設、東京ガス、東京電力、トヨタ自動車、リクルートなど、ベンダーとしてアルゴ21、NECソフト、NTTデータ、沖電気工業、キヤノン、新日鉄ソリューションズ、ソニー、東芝、日本ユニシス、日本IBM、野村総合研究所、日立製作所、富士通、松下電器産業、三菱電機など、大学として高知工科大学、電気通信大学、東海大学、東京大学、東洋大学、名古屋大学、奈良先端科学技術大学院大学、南山大学、日本大学、北陸先端科学技術大学院大学、早稲田大学などが参加する。このほか、ドイツのソフト研究機関であるフラウンホーファーIESE(実践的ソフトウエア工学研究所)とも協力する。

 SECの活動スケジュールは当面、今年度を含め3年(2007年3月まで)を計画している。IPAの藤原武平太理事長は、「初年度から目に見える成果を上げて、世に問いたい」と意気込みを見せる。

矢口 竜太郎=日経コンピュータ