ユーザーの要求を引き出して管理する要求分析を工学的に扱う要求工学の国際会議が、9月6日から11日までの6日間、京都においてアジアで初めて開催された。その議長を務めた、南山大学 数理情報学部 情報通信学科の青山幹雄教授は、「日本はいま要求分析の体系化が欧米に比べて遅れている」と指摘する。

 要求工学国際会議は、1993年に始まり今年で12回目を数える。今回、米IEEE Computer Societyと情報処理学会ソフトウェア工学研究会が主催した。参加者は、日本を含めたアジア地域から201人、北米および南米の地域から39人、欧州および中東地域から115人が集まった。

 日本の参加者が多かったものの、論文の投稿は、「欧米からものが圧倒的に多かった」と青山教授はくやしがる。発表された27の調査論文のうち、英国からが約1/4を占めてもっとも多く、次いで米国からが約1/5となっている。

 その理由について青山教授は「日本は各企業がノウハウを持っているのに、外に出したがらないため」と見ている。今回日本で国際会議を開くよう同教授らが汗を流したのも、「日本で議論が活発になってくるためのトリガーとなれば」との思いからだ。

 しかし、要求工学に企業が取り組むことの難しさについて、「この分野は原理原則を研究するもので、効果が出るのか出ないのか予想がつかない。企業として努力を積み上げていくのが難しい」と青山教授は説明する。その問題をクリアする道として、「企業には、大学側が長く研究してきたものを使って、その問題点を洗い出してほしい」と主張する。

 今回の国際会議で話題に上ったテーマは、「ゴール指向分析」、「ステークホルダー分析」、「非機能要求の分析」だった。「システムの要件からユーザーの要求やビジネス価値といった上流方向に興味が広がっている」と青山教授は分析する。参加者の一人であるNTTデータ 公共システム事業本部技術統括部オープン技術推進担当の斉藤信也部長は、「自社の要求分析の手法を体系化したMOYAを実際のプロジェクトで適用し始めた。ゴール指向分析やステークホルダー分析を取り入れて、成果が見え始めたところ。国際会議でも注目テーマなので自信につながる」と感想を述べた。

森側 真一=日経コンピュータ