神奈川県の在宅介護事業者である湘南ホームフレンドは7月、業務システム「楽にネット」を稼働させた。在宅介護を必要とする利用者の介護計画を立案するなど、さまざまな業務を支援する。今回のシステムの導入により、同社担当者の作業の生産性を2倍以上に高めることを狙う。

 楽にネットの特徴は、リッチ・クライアント技術を取り入れたユーザー・インタフェースにして、操作性を高めたこと。システム構築に携わったエルシーネットの小林隆治専務取締役は、「担当者は中高年の人が多く、コンピュータに不慣れ。操作性が悪いと、生産性は逆に落ちてしまう」と説明する。

 利用した技術は、マイクロソフトの「スマートクライアント」。Webアプリケーションの管理容易性を保ったまま、従来のWebブラウザでは実現しにくい操作性を追求した。ユーザーはWindowsパソコンで稼働するクライアント・ソフトを起動し、楽にネットのサーバーにインターネット経由でアクセスする。クライアント・ソフトは初めて楽にネットのサーバーにアクセスしたときにダウンロードし、2回目からは、ソフトの更新がない限りダウンロードする必要はない。ソフトの更新は、自動的に行われる。

 在宅介護事業者は大きく、二つに分かれる。介護計画を立案・管理するケアマネジャを擁する「在宅介護支援事業者」と、食事・入浴といった訪問介護を行うホームヘルパーの派遣や、福祉用品のレンタルなど、具体的な介護サービスを実行する「介護サービス提供事業者」である。後者は個々の業務に特化した小規模な事業者が多く、在宅介護支援事業者は複数の介護サービス提供事業者と連携して在宅介護を進める。

 湘南ホームフレンドは在宅介護支援事業を中心としながら、介護サービス提供事業も行っている。そこで楽にネットには、ケアマネジャと、ホームヘルパーを管理する担当者それぞれが必要とする機能を搭載した。

 ケアマネジャ向けの機能では、介護計画や介護スケジュール、介護保険制度で定められた帳票類の作成に加え、介護サービス提供事業者への指示や実績確認、保険料の給付請求といった一連の業務プロセスをカバーする。ホームヘルパーの管理者向けの機能では、ホームヘルパーのスケジュールの割り当て、給与管理、利用者への自己負担金請求、帳票類の作成、給付請求などの業務が実施できる。

 楽にネットを使った業務の流れは例えば次の通り。ケアマネジャは介護計画に沿って介護スケジュールを作成し、さまざまな介護サービス提供事業者に作業を割り振る。ホームヘルパーの管理者は、このスケジュールを確認。変更申請や実績を入力する。

 従来、これらのやり取りは紙や電話、ファクシミリを用いて行っていた。しかし介護のスケジュールは頻繁に変更される。連絡の行き違いや間違いで、利用者のもとにホームヘルパーが行けなかったり、ホームヘルパーが利用者宅まで行ってみたら誰もいなかった、ということが発生していた。実績の記録もおろそかになりがちで、「給付申請のための事務作業で苦労していた」(小林専務)。

 すべてのスケジュールや変更が画面上で確認できれば、連絡の不備を減らすことができる。その入力や確認はタイムチャートを使って直感的に行えるのが、「リッチ・クライアントのメリット」(小林専務)である。介護の仕事では、介護事業を管轄する国保連合会が定めた紙の帳票を多用するが、それらを画面上でほぼ再現できるのもリッチ・クライアントならではのこと。小林専務は、「使い慣れた帳票類に合わせることが、ユーザーに違和感を感じさせない大事なポイントの一つ」と語る。

 エルシーネットは、楽にネットをASPサービスとして他の在宅介護事業者にも開放する。加入料は2万円、基本利用料はケアマネジャ事業者が1万円(1利用者)、介護サービス事業者が1万5000円(1利用者)である。

 エルシーネットは、湘南ホームフレンドや、マイコンの開発などを手がけるアトム技研、建設会社である門倉組が出資するシステム開発会社である。また、楽にネットの開発にはソフト開発会社であるハローシステムが全面協力した。

高下 義弘=日経コンピュータ