NEC、文化放送、NTTドコモは、FOMA網を利用してラジオ中継ができる装置「mobilestudio」を共同で開発した(写真右)。

 従来のラジオ中継は、中継車からFM波で音声を伝送しており、中継車、技術者、運転手などが必要だった。この装置を使えば、こうしたものは不要になる。文化放送の太田英明アナウンサー(写真左)は、「軽くて、持ち運びも簡単。どこでも中継ができ、夢のような製品」と語る。

 装置の寸法は25cm×23cm×10cm、重量は3kg。バッテリで2時間動作する。FOMAを利用しているため、中継車が入れない地下や電車内、山間部などからでも中継が可能になる。実験では、時速80kmで走る自動車内からでも中継ができたという。

 中継先で利用する装置にはFOMAのデータ通信カードを差し込んで、音声をデータに変換して送信する。放送局側は、同じ装置をISDN回線に接続し音声データを受信する。装置の価格は1台99万円で、中継先で利用する装置と放送局側の装置がそれぞれ必要。8月から出荷する。

 ラジオ放送向けの音声品質を確保するため、さまざまな工夫をした。現場の臨場感を伝えるために、人の声だけではなく周囲の音もクリアに伝送できるよう、音声のデータ化方式を独自開発した。また、伝送遅延を最小にするため、64kビット/秒の回線を占有する回線交換方式でFOMA網と接続し、パケットの長さも最適化した。伝送途中で音声データのパケットが破棄された場合は、前後の音声から補完して、音声の途切れが目立たないようにする機能も搭載している。

 NECは同様の仕組みで、映像も伝送するシステムを開発中だ。FOMAのデータ通信カードを複数枚利用して、テレビ中継に耐える高品質の映像の伝送を目指している。ただし、製品化は未定。

坂口 裕一=日経コンピュータ