「IPアドレス割り振り/割り当ての際に徴収している料金を改めようと思っている」。国内のIPアドレスを管理する日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)は、IPアドレス利用にかかる料金体系の刷新を検討している。5月のJPNIC理事会、6月の総会で審議を重ね、早ければ8月から新料金を適用したい考えである。

 JPNICは2月、IPアドレスの割り振りを受けるIP指定事業者、つまりISP(インターネット・サービス・プロバイダ)各社に新料金案を提示。3月19日まで意見を受け付けた。4月にはその意見を考慮した案を再提示する予定。新料金案に対して不満の声をあげるISPもあるが、多くは「やむなし」と見ている様子だ。

 インターネットに接続するために使うグローバルIPアドレスには、JPNICに支払う費用がかかっている。JPNICがIPアドレスやISPの情報を管理するためにかかる経費と、管理システムの運用、開発などにかかる費用に当てるためである。

 具体的な料金は、ISPから徴収する「維持料」と、ユーザーにアドレスを“固定的に”割り当てるときに発生する「割り当て手数料」の2種類。維持料は割り振られたアドレス・ブロックの大きさによって変わり、最小単位の4096個(12ビット分)で年額10万円。割り当て手数料は、IPアドレスの利用者(管理者)の情報をデータベース(whoisデータベース)に登録するためにかかる費用で4500円。割り当て手数料を初期費用としてユーザーに請求するかどうかは、ISPによって対応が違っている。

 JPNICが料金を改定する目的は二つある。一つは、この割り当て手数料をなくすこと。もう一つは、できるだけ維持料などの収入だけでIPアドレス管理事業の運営費をまかなうことである。「発端は、一般家庭のユーザーを含め、IPアドレスを固定的に割り当てるケースが増えていて、今後もその傾向が続きそうなことだった」(JPNICの佐藤晋IP事業部IPアドレス課長代理)。ISPから動的にアドレスを割り当てられる場合は、割り当て手数料の課金対象にはならないが、固定アドレスを使う場合は個人でも割り当て手数料がかかる。

 4500円の手数料は、企業ユーザーにとってみればそれほど負担にはならない。しかし、「個人にとっては導入の敷居を高める。手数料がインターネット利用の足かせになることは避けたい」(成田伸一事務局長)。しかも、IPアドレスの割り当て業務は、システムの強化によって自動化が進み、今後は割り当て業務のコストは減っていく方向にある。こうした背景で、ユーザーに割り当て手数料がかからない料金体系を考え始めた。

 ただJPNICの運営費は、その6割を割り当て手数料に頼っている。それも、維持料を合わせた現在の収入だけではまかない切れず、JPNIC正会員が納めた会費の一部を充当しているのが実情だ。単純に割り当て手数料をなくしてしまうと、赤字が膨らんでしまう。また、本来、ISP以外の企業も支払っているJPNICの会費を、IPアドレス管理の運営費に当てることは極力避けたい。そこで、ISPからの収入だけで事業が成り立つ料金構造を検討した。

 新しい料金体系は、IPアドレスの基本維持料と「割り振り」手数料、そしてJPNIC非会員だけに課される特別維持料の3種類からなる。割り振り手数料は、ISPにアドレスを割り振る際に1アドレス4円ずつ課金されるが、すでに割り振られているISPは、再割り振りを受けてアドレス・ブロックを増やさない限り課金されない。ISPにとって影響が大きいのは、基本維持料の新料金と、特別維持料だ。特に、12~14ビットのアドレス・ブロック(4096個~1万6384個)を利用するISPは、基本維持料だけでも現状の維持料の2倍、特別維持料を合わせると4倍になる場合がある。そのツケがサービス料の値上げという形でユーザーに回ってくる可能性は否定できない。

 逆に、JPNIC正会員の大手ISPは、料金は下がる。JPNIC正会員には特別維持料がかからないうえ、大きなアドレス・ブロックについては基本維持料が値下げされるからだ。これらの大手ISPからは、「ユーザーにメリットが出る形でサービス内容を変えられる可能性がある」との声も聞かれる。

 実は、この不平等にも見られかねない料金改定の背景には、大手ISPの脱退を防ぎたいという事情がある。ISPは、JPNICではなく、アジア太平洋地域のアドレスを管理するAPNIC(アジア・パシフィック・ネットワーク・インフォメーション・センター)から割り振りを受けることができる。このAPNICの維持料がJPNICの現行料金よりも安いため、乗り換えの可能性は十分ある。実際、韓国の大手ISPがAPNICに乗り換えた例がある。大手ISPは1社で小規模ISP数社分以上の料金を支払っているため、脱退されると影響が大きい。JPNICの収入が大幅に減り、その分をまかなおうとすると、小規模なISPに多額の料金を課すしかなくなる。そこで、大手ISPのコスト負担を減らして脱退を回避できれば、小規模ISPのコスト負担増を最小限に抑えられると考えた。

 JPNIC正会員と非会員のコスト負担を平等にしたいという思いもある。正会員ISPには特別維持料は課金されないが、これは、正会員ISPがJPNIC会費という形でコストを負担しているため。これと同等のコストを特別維持料として非会員ISPから徴収し、コスト負担を平等にしようと考えている。

 ただし、具体的な金額については、議論の余地がある。JPNICに寄せられた意見のなかにも、「料金改定はやむを得ないが、維持料は割り振ったIPアドレスの数を基にするなど、金額を見直してほしい」とった声があったという。ISP、ユーザーともに納得のいく料金体系を期待したい。

河井 保博=日経コンピュータ