「米国の新しい貿易物流業務システムが採用したICタグは日本では使えない。このままでは日本からの海上コンテナは敬遠されかねない」と、新産業創造研究機構(NIRO)の水上 裕之部長は警鐘を鳴らす。NIROは、神戸を中心にした地域産業の活性化のために兵庫県や神戸市、地域企業が設立した財団法人である。

 米国の新しい貿易流通システムとは、米政府が2006年をメドに導入する「ACE(Automated Commercial Environment)」のこと。ACEは、米国での通関業務に加え、船舶の入出港や輸出入の申請、乗員の入出力管理、検疫、関税や手数料の決済、そして物流を管理する機能を備える。いわば米国の貿易関連業務の基盤である。ACEは、業務や手続きの効率化はもちろん、テロ対策として不審物の持ち込みや不審な荷主のチェックを強化する狙いもある。

 ACEは、433MHzのICタグを装着することによって個別の海上コンテナを管理する。さらに、ICタグにはセンサーを組み込んでおり、検査済みのコンテナを不正に開けた場合には、これを検知する仕組みを備える。

 ところが、日本では海上コンテナに433MHzのICタグをつけることができない。433MHzはアマチュア無線が使用する周波数帯域であり、ほかの用途に利用できないことになっているからだ。「他国のコンテナがACEを利用してスムーズに受け入れることができるようになるのに、日本企業のコンテナは従来同様の煩雑な手続きを踏まねばならない。不正に開閉したかどうかをICタグで管理することもできないので、コンテナを何度もチェックしなければならない。日本企業は、対米貿易で他国の企業にはないハンデを背負うことになる」(水上氏)。

 水上氏によれば「すでに欧州各国やシンガポールなどはACEに対応すべく、準備を進めている。韓国では433MHz帯をコンテナで利用できるようにしようという動きがある」という。この問題を解決するためNIROは、総務省や経済産業省には、433MHzの周波数帯域を神戸港内でだけでも利用できるよう働きかけていく。NIROは、「電子タグ・電子シール利用研究会」を設けて会員企業の募集を開始。ICタグを使ったコンテナのセキュリティ向上や、トレーサビリティ・システムの実現についての実証実験を実施する意向である。

 水上氏は、「日本はただでさえ、港湾関連のIT化が遅れ、神戸港をはじめとする主要な港の取引量は年々減少している。これ以上立ち遅れるわけにはいかない」と意気軒昂だ。

(福田 崇男=日経コンピュータ)