「ICタグの採用に向けた実証実験中、倉庫でのICタグの故障率が異常に高まった。調べてみると、労働者がハンマーでICタグを叩き壊していることが分かった」。3月17日と18日に米国のボストンで開催されたICタグ関連のコンファレンス「Smart Labels USA 2004」では、こんなエピソードが紹介された。演壇に立ったのは、ICタグのベンダー、米アップルトンのビジネス・デベロップメント・マネージャであるビンセント・リース氏。エピソードは同社の顧客企業が遭遇したあるトラブルの事例である。

 ICタグを物流に採用する企業が、そのメリットとして必ず口にするのが「省力化」だ。商品の情報を荷台やコンテナ単位で一括読み取りすることで、これまで倉庫でバーコードでの検品作業などに携わってきた人員を減らし、コストを削減できるという。では、省力化で要らなくなった労働者はどこへ行けばいいのだろうか。

 冒頭の事例に登場した労働者は、ICタグという新技術が自分の仕事を奪うことを恐れて、ICタグを破壊していたらしい。産業革命期に英国で起きたラッダイト(打ち壊し)運動をほうふつとさせるエピソードだ。リース氏は、多くのICタグにおいてICを内蔵した部分が周囲よりも出っ張っており、衝撃に対する弱点となっていることを指摘。同社が専用施設でのテストなどを通じて、平滑で強いICタグの開発に注力していると述べた。

 別の講演者は、チャップリンの「モダン・タイムス」の有名な一場面、主人公の工場労働者が大きな機械に翻弄される部分を引用した上で、「ヒューマン・ファクターを忘れてはいけない」と話した。効率ばかりにに注目が集まる中で、人間への配慮を欠いた新技術の採用が思いがけない混乱をもたらすと警鐘を鳴らした。

本間 純=日経コンピュータ 米ボストン発