ICタグにより製造業が享受するコスト効果は、1ケース当たり7ユーロセント(約10円)。小売業が得るコスト効果は8.9ユーロセント(約12円)――。

 スイスのザンクト・ガレン大学教授であるエルガー・フライッシュ氏は3月16日、ICタグ実用化に関するセミナー「RFIDユーザーフォーラム Spring 2004」の基調講演で、ICタグの導入で企業が享受する効果を数値化して示した。フライッシュ教授は、ICタグの国際研究機関であるオートIDラボ(Auto-ID Labs)の共同議長を務める。オートIDラボは、ICタグの国際標準化団体であるEPCグローバルの下部組織。

 フライッシュ教授が示したコスト効果は、商品の「ケース」にICタグを付けて流通させた際に、荷受けや棚卸し作業の効率化により得られる経費削減額と、欠品防止による利益増加額の合計をケース単位で試算した金額である。物流業務において複数のケースを運搬する際に使う「パレット」にICタグを付けると、製造業は1パレット当たり50ユーロセント(約68円)、小売業は15.7ユーロセント(約21円)の効果が加わる。

 このコスト効果は、ICタグの単価が安くても40~50円すると考えると、少し期待はずれの金額といえる。タグのコストを回収することもままならないからだ。フライッシュ教授も「今回挙げた金額だけを見ると、企業はなかなか実用化には踏み切れないだろう」と認める。ただし、フライッシュ教授が示した金額は、あくまでも簡単に数値化できる効果を計算したもの。実際は「目に見える形で簡単には表せない効果もある」(フライッシュ教授)という。

 RFIDユーザーフォーラムは、日経BP社のICタグ専門サイト「RFIDテクノロジ」が主催したセミナー。1回目の今回は、石川島播磨重工業が自社の取り組みを披露したり、アパレルや家電、出版の業界がそれぞれの取り組みを紹介。経済産業省が日本の政策を説明した。韓国から来日した政府関係者を含む389人が参加した。

栗原 雅=日経コンピュータ