「私がプロジェクト・マネジャを務める場合、プロジェクト・マネジャの活動を四つに分類して考えている」。製造業向けコンサルティング会社であるネクステックの齋藤隆弘ディレクターはこう話す。同社の主業務は業務改革のコンサルティングであるが、システム開発のプロジェクトマネジメントも担当している。

 齋藤ディレクターが考える四つの分類は、2×2のマトリクスで表現する。マトリクスの横軸はその活動をプロジェクト期間中に常時行っているか、非定期で随時行っているかの区分。縦軸はその活動がプロジェクト全体を対象にするものか、特定のチームもしくはメンバー個人を対象にするかの区分だ。これらを組み合わせた「常時・全体」、「常時・個別」、「随時・全体」、「随時・個別」の4領域にマネジャの活動をマッピングする。

 常時・全体の領域は「“当たり前”の活動」と説明する。定例の全体ミーティングなどがこの領域に属する。この対極にあるのが、随時・個別の領域。プロジェクト・メンバー個々人に対して本音ベースの意見を聴取する面談や、“非業務”の打ち合わせが属する。「この領域こそが大事」と齋藤ディレクターは考える。

 随時・個別の活動の一番の目的はプロジェクトのリスクを発見すること。「例えば、チーム・リーダーの欠点は、チーム・リーダーからの報告では分からない。メンバーからの生の声を収集することが必要」(齋藤ディレクター)。

 随時・個別の活動から見つけたリスクによって、常時・個別と随時・全体の二つの領域の活動が始まる。そのリスクの原因が特定のチームや個人に関するものであれば、課題が解決するまで「てこ入れ」をする。これが常時・個別の活動に当たる。進捗が遅れた特定のチームに一定期間、集中的にレビューをすることはこの領域の活動だ。また、リスクの原因が全体に関係するのであれば、ステークホルダー(利害関係者)を集めた緊急会議が必要になる。これは随時・全体の活動と呼べる。

 外資系の大手コンサルティング会社に勤めた経験のある齋藤ディレクターは「常時・全体以外の3領域の活動は日本的」だと感想を述べる。「日本では、全体会議の場でメンバーの本音が隠れがち。そのため、これらの3領域が必要になる。全体会議でも本音が飛び交う欧米では必要ないだろう」(齋藤ディレクター)。

 「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)だけでは不十分という意見が根強いのも、欧米と日本の文化の違いから来る」とも付け加える。PMBOKはプロジェクトマネジメントに関する事実上の国際標準。PMBOKで規定してある内容は、いわば常時・全体の活動だ。「欧米ならばPMBOKだけでもプロジェクトのすべてを示しているが、日本のプロジェクトマネジメントの場合、そのほかの3領域まで含んで初めて網羅できる」(同)。

(矢口 竜太郎=日経コンピュータ)