日本IBM 技術
ビジネス・エンジニアリング担当
神庭弘年理事

 「ITプロジェクトでは言語スキルを持った人材が以前にもまして重要になっている」。日本IBMの技術 ビジネス・エンジニアリング担当の神庭(かんば)弘年理事(写真)はこう語る。神庭理事の言う“言語スキル”とはプログラミング言語のスキルではなく、一般的な国語力や思考力のことだ。プロジェクトマネジメント学会が1月9日に「明日の扉を開くプロジェクトマネジメント」と題して開催したセミナーでの発言。同氏は日本IBMで製造業を中心に数々の難プロジェクトのプロジェクト・マネジャを歴任してきたベテランである。

 言語スキルは、ITプロジェクトでいっそう重要度が増大している要件定義フェーズで特に必要になる。「要件定義では、顧客の要件を正確に理解し要求仕様書を書き上げることが求められる。当たり前のことだが、要件を正しく理解するためには読む、聞く、話すといった能力が欠かせない。正しい仕様書を作成するには、正しい日本語を書く能力が必要だ」(神庭理事)。

 言語スキルが脚光をあびる背景として神庭理事は、「プロジェクトの規模が小さくなった」ことを挙げる。これにより、誰もが要件定義をしなければならなくなってきた。以前はユーザー企業やベンダーに要求定義に慣れた人材がいた。「今は油断していると、言語スキルのないプロジェクト・メンバーがアサインされひどい仕様書を作ってしまう。プロジェクト・マネジャはメンバーのITスキルだけではなく、言語スキルまで注意深く判断しなければならない」(同氏)。

 他フェーズでも言語スキルによる差が大きくなっている。オブジェクト指向が進むことで「個々人の能力差が設計品質に直接反映してしまうようになった。部品化したソフトの設計は個人に任せざるをえない」(神庭理事)からだ。神庭理事は、「顧客の仕様を正しく理解できている担当者は、オブジェクトのクラス名一つとってもどんな機能をするかわかるような名前をつけるし、正しく理解できてない担当者は他人が見ると意味がわからないような名前をつけがちだ」と語る。

 加えて設計には、ユーザーの要件を抽象化できる能力や論理的な思考能力が大きく影響する。同氏は、「これらの能力が足りない設計者が作ったオブジェクト部品の設計は問題があることが多い」と指摘した。

鈴木 孝知=日経コンピュータ