2003年11月20日に三井住友銀行で発生したシステム障害の詳細が明らかになった。他行宛ての振り込み処理が一部不能になった直接の原因は、銀行間の為替取引を処理する「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」への接続を制御する、同行の「全銀中継システム」にプログラムの不具合があったから。トラブルが発生したきっかけは、2003年11月17日に全銀システムが8年ぶりに全面刷新したことである。

 全銀システムは東京銀行協会から委託を受けてNTTデータが開発・運用を手掛けている。一方、全銀システムに接続している銀行や地方銀行、信用金庫、信用組合など1679行(2003年11月17日現在)は、それぞれ全銀システムとの接続を制御する全銀中継システムを保有している。銀行によっては、ほかの銀行と全銀中継システムを共同利用しているところもあるが、全銀システムとの接続には必ず全銀中継システムが必要だ。

 2003年11月17日に稼働開始した全銀システムの名称は「第5次全銀システム」。つまり、1973年4月9日に最初の全銀システムが稼働してから4度目のメインバージョンアップである。今回は、為替電文のフォーマットが変更になったり、全銀システムへの接続ネットワークがパケット交換網からフレーム・リレー網に置き換わるなど、「これまでで最大規模の変更があった」(関係者)。

 こうした全銀システムの変更に伴い、銀行が保有する全銀中継システムにもアプリケーションを修整する必要が生じる。三井住友銀行はこの機会をとらえ、自行の全銀中継システムをハードウエアとソフトウエアごと全面的に刷新することにした。この新しいアプリケーションの開発段階で、不具合が紛れ込んでしまった。

 今回の不具合は、大量の電文が全銀システムに舞い込んだときに表面化する性質のものだった。11月20日、定刻どおり午前8時30分に第5次全銀システムが接続サービスを開始して間もなく、各行からの為替電文が集中。富士通のメインフレーム「GS8800」6台からなる第5次全銀システムは、1時間当たり最大380万件の為替取引を処理する能力を備えるが、それでも一時的に一定量を超える為替取引が舞い込んだ。全銀システムは、あらかじめ決められた仕様にしたがい、各行の全銀中継システムに対して電文の送信を抑止する「制御電文」を送った。

 制御電文を受信した各行の全銀中継システムは、時間をあけてから再送するなど電文の送信を調整しなければならない。ところが、三井住友銀行の全銀中継システムでは、こうした電文の調整を行う「電文制御プログラム」に不具合があり、為替電文に不整合が発生。午前8時37分に同行の全銀中継システムが停止した。

 三井住友銀行はトラブルの原因究明を続けると同時に、11月20日の午前12時ごろに振り込みの新規受け付けをいったん停止。応急処置を施して同日午後2時40分に全銀中継システムを再稼働させ、為替電文の送信を再開した。全銀システムの運転時間は通常午後3時30分までだが、午後4時まで接続を維持してもらい、電文の送信を進めた。

 全銀システムとの接続が終了した午後4時以降、三井住友銀行はプログラムの不具合を直し、同日の夜間から翌21日の早朝にかけてテストを実施。21日午前8時30分の全銀接続開始までに、プログラムを正常なものに入れ替えた。

 トラブルが表面化した日が第5次全銀システムの稼働日である11月17日でなく3日後の11月20日だったのは、11月17日から19日までの3日間は全銀システムが受け付けた為替取引の件数が制御電文を送信する程度まで達しなかったからだ。第5次全銀システムは、11月20日に初めて制御電文を送ったわけだ。

 三井住友銀行が不具合を事前に除去できなかったのは、制御電文を受け取った場合の動作を確認するテストが十分でなかったためと見られる。同行は全銀中継システムのハードウエアやソフトウエア構成について、「セキュリティの観点から公表は差し控えたい」(広報部)としている。

 同行の全銀中継システムは11月21日以来、正常に動作している。トラブルの影響で、本来であれば11月20日に送信すべき為替電文が一時的に未処理になったが、11月21日に11月20日付で処理したり、為替電文を磁気テープに格納して直接全国銀行データ通信センターに持ち込むなどして、11月25日にはすべての未処理分を完了させた。

大和田 尚孝=日経コンピュータ