写真1●NECの3香港
対応端末「c616」

 ハチソン3G香港は、W-CDMA規格に準拠した第3世代携帯電話(3G)の商用サービス「3 Hong Kong(3香港)」を来年1月上旬にも開始する。3Gの商用サービスは、アジアでは日本と韓国に続き3地域目、中華圏では初めてである。NECがハチソン3G香港に対し、対応端末「c616」(写真1)を供給する。

 ハチソン3G香港は、香港の有力財閥ハチソン・ワンポア・グループの携帯電話事業者。12月15日に香港のホテルで開催した記者発表では、ハチソン・ワンポア・グループの霍建寧総経理(写真2)が3Gサービスのデモを使って見せ、「テレビ電話や動画メールのほか、ニュースや天気予報、交通情報など多様なコンテンツを用意した。(中華圏で広く普及している)ショート・メールを受信するのと同じ感覚で、これらの様々な情報を手に入れられる」と説明した。

サービスの目玉はプッシュ型情報配信

 デモで見せたプッシュ型情報配信サービス「3 Daily express」が、3香港の最大の目玉である。ハチソン・ワンポア・グループが他地域で提供している3Gサービスでもプッシュ型情報配信サービスはあるが、3香港ではそれをさらに充実させた。3Gの高速性を生かした動画メールを、午前7時から午後8時まで1日13回、加入者に送信する。13回のうち6回は、ニュース、天気予報、交通情報といった生活に密着した情報で、残りの7回は金融情報。金融情報を充実させることで、エグゼクティブ層を狙い打つ。金融情報としては、香港の株式指標であるハンセン指数の速報を、午前と午後の取引開始、終了直後に送信。それとは別に、香港市場の市況詳報や海外の株式指標情報などからなる金融専門ニュースを3回送る。

霍建寧総経理
写真2●ハチソン・ワンポア
・グループの霍建寧総経理
 NTTドコモの「iモード」のように、ユーザーが欲しい情報にアクセスするプル型の情報も豊富にそろえた。従来のGSMサービスで提供していた画像や着信メロディのダウンロードに加え、多様な動画コンテンツを用意する。最新作の映画のプレビュー、音楽の映像クリップ、ファッションやテレビ番組の情報、スポーツや芸能関連のニュース、アダルト・コンテンツなどだ。自宅にカメラを設置して随時自宅の状況を動画で確認できる監視サービスも提供する。

 3香港では、「テレビ電話機能」や、ハチソン・ワンポア・グループが3Gサービスを提供している英国、イタリア、オーストラリアなどに自分の携帯電話を持ち出し、同じ電話番号で使える「国際ローミング機能」も提供する。国際ローミング中の端末との間で、国をまたがった「国際テレビ電話」をすることも可能である。

日本との国際ローミングは当面不可、ドコモの対応待ち

 NTTドコモはハチソン3G香港に24%出資しており、3香港の携帯端末とNTTドコモの3Gサービス「FOMA」対応機との間で国際テレビ電話が可能である。ただし、日本・香港間の国際ローミングは、当面できない。FOMAのネットワークがW-CDMA規格に一部準拠していないことが原因だ。香港での発表会に出席したNECの中村勉常務によれば、「ドコモは近いうちにFOMAのネットワーク改造に取りかかる。これが完了し、同ネットワークがW-CDMAの規格に完全に準拠すると、日本でも国際ローミングが可能になる」という。

 3香港の月額の基本料金は、263香港ドル、383香港ドル、533香港ドル(1香港ドル=14円換算で約3682円、約5362円、約7462円)の3種類を用意。基本料金には、それぞれ無料通話分を含んでいる。

 新サービスに合わせてNECが発表した対応端末「c616」は、折りたたみ式のきょう体の外側・内側にそれぞれカメラを搭載している。文字、静止画、動画など種類の異なる情報を単一のメール・ボックスで一覧表示できる。内部には無線通信制御用、アプリケーション動作用の2種類のプロセサを備える。前者はNECと米Agere Systemsが共同開発、後者は米Texas Instrumentsから調達した。NECの日本国内の事業所で開発し、生産は米Solectronが中国国内に持つ工場に委託した。

 c616端末の販売価格は4380香港ドル(約6万1320円)。2台以上まとめ買いすると1台当たり3980香港ドル(約5万5720円)とし、GSM携帯電話のハイエンド機並みに抑えた。

NEC金杉社長「ハチソンについていくのは大変」と本音

 今回の発表でサービス開始時期を「来年1月上旬にも」とするだけで明言しなかったのには、訳がある。NECの端末供給体制に不安があるからだ。

 ハチソン・ワンポア・グループが欧州やオーストラリアなどで先行提供している3G商用サービスは、いずれの地域でも加入者数が目標を大きく下回っている。対応端末を供給するNECと米Motorolaの生産体制が追いつかないことが、その最大の理由である。

 供給の遅れの原因についてNECの中村常務は、「c616に内蔵しているアプリケーションのチューニング、テストに時間がかかった」と日経BP社北京特派員に説明した。「NECはハチソン3G香港に対して基地局1200基を納入し、今春にSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したころには既に設置もチューニングも完了していた。しかし同社は、当時あったW-CDMA対応端末では魅力に欠けると判断し、c616の量産出荷を待っていた」(NECの中村常務)と背景を語った。

 NECの金杉明信社長は記者会見で、「c616ほど素晴らしい3Gの端末は世界にない。ベストの製品を作るのに時間がかかった」と強気のコメントを発したが、会見後に「ハチソン香港の発想はすごいが、ついていくのが大変」と思わず本音を漏らした。

 金杉社長は「ハチソン・ワンポア・グループに対する端末は、今年12月末までに全世界で100万台、2004年1~3月でさらに150万台を供給する」と不安がないことを強調。c616についても「すでに出荷段階に入っており、今後2週間以内にすべての準備が整う」とコメントした。ハチソンの霍総経理も「来年1月初めには、c616が香港の店頭に並ぶ」と述べたが、サービス開始日を特定するのは避けた。

金子 寛人=北京支局特派員