「データ・マイニングのツールには“魔力”がある。データ・マイニングを実施している企業はツールを導入し、データを分析することで満足しがちだ。しかし、これだけでは意思決定に重要な結果を見逃すことになり、かえって危険だ」。筑波大学ビジネス科学研究科の大澤幸生助教授は、このように警鐘を鳴らす。

 大澤助教授によれば、データ・マイニングとは顧客の行動パターンや相手企業の特許分析といった“外側”の現象を分析することをいう。これに対し、大澤助教授は現場の勘や個人の興味といった“内側”を分析する「チャンス発見」と呼ぶ考え方を提言している。

 チャンス発見の「チャンス」とは、意思決定において重要な事象、状況またはそれらに関する情報を指す。データ・マイニングはすでに起こった出来事の関係を分析することに重点を置くのに対し、チャンス発見は出来事が起こる前の事象に注目する点が異なる。

 大澤助教授は、「データ・マイニングでは、『めったに起こらないこと』や『全く新しい事象』を発見することは極めて難しい。分析者は自分のパターンを解釈できなかったり、見過ごしたりしがちだからだ。せっかくデータ・マイニングを実施しても、本当の“チャンス”は発見できないことが多々ある」と説明する。

 チャンス発見の作業を支援するために、大澤助教授が中心となって「KeyGraph」と呼ぶツールを開発した。KeyGraphは、AI(人工知能)技術を利用してテキスト・データなどを分析し、類似しているキーワード間の結びつきをグラフで表示する。

 例えば、複数の商品に対する消費者の声をKeyGraphで分析すると、何らかの点で類似している商品どうしが線で結ばれて表示される。そのなかの二つの商品に注目すると、それら二つの商品を結ぶ線上にある商品は、どちらかの商品を購入した消費者の需要を満たすと考えられる。こうした結果を、新商品の開発に役立てることができる。

 大澤助教授は、「KeyGraphで分析した結果を参照するだけでなく、現場に出ることや実物に触ることが重要」と強調する。例えば日東紡は、2002年の秋冬向け新商品を開発する際に、チャンス発見の手法を利用した。同社は顧客からの資料請求データを分析した結果、売れ筋商品群を結ぶ線上に「コーデュロイ素材」があることを“発見”。コーデュロイを素材にした衣料品を発売し、成功を収めた。

 「KeyGraphを利用するのと併せて実際の素材を触り、素材の感触を確かめながら製品開発をしたのが成功の秘けつ。素材の感触は、コンピュータの画面を見ているだけでは分からないからだ」と大澤助教授は指摘する。

島田 優子=日経コンピュータ