アジアのソフト会社に開発を外注してトラブルが発生し、失敗する例が後を絶たない。「自分のやり方を不用意に押しつける日本側の発注者の姿勢に問題があることが少なくない」と、ソフト開発プロセスや品質管理の研究を行っている武蔵工業大学工学部システム情報工学科の兼子毅講師は警鐘を鳴らす。

 同氏は9月に訪問した中国で、ソフト開発における日本の発注者側と中国の受注者側の食い違いを各所でみたという。あるソフト開発案件では、ソフトの仕様を記述したドキュメントを中国のエンジニアに渡したところ、何も質問がなかったので日本の発注者が安心していたら、中国のエンジニアが大きく誤って理解していたことがあとで発覚した。「中国のエンジニアは、ドキュメントが不完全で理路整然としていなかったのが原因と主張していた。日本ではあいまいな記述でも、お互いのやりとりで補完することがよくある。そういった慣習を中国にそのまま持ち込み、注意や確認をしていなかった」(兼子氏)。「このほかにも発注者側からの仕様変更の多さに、あきれている中国のエンジニアがいた。仕様変更が多いなら、最初から言っておかねばならない」(同氏)。

 こういった問題が発生したときに、「中国のエンジニアは、発注者のドキュメントがあいまいだった、仕様変更の取り決めをきちんとしていなかった、などと論理的に突き詰める」(兼子氏)という。

 また、「体系化したソフト開発プロセスを作ろうとする中国のエンジニアが多い」と兼子氏は指摘する。「日本では体系立ったソフト開発プロセスを作ろうとしなくなってきた。そういうことを行う人が少なくなっているように思う」(同氏)と危惧する。

 中国などアジア各国にソフト開発を発注して失敗すると、「文化の違いで済ませてしまい、思考停止に陥っている日本人がけっこういる」(兼子氏)。「改めて基本に戻って開発プロセスを見直すべきだ」と同氏は訴える。

 兼子氏は、「第22回ソフトウェア生産における品質管理シンポジウム」(12月4~5日開催、日本科学技術連盟主催)の委員長を務める。このシンポジウムのパネルディスカッションなどで「アジアと共同でモノ作りをやっていくときに、お互いの強みを生かす道をみつけたい」(同氏)とする。

(安保 秀雄=日経コンピュータ)