パナソニック モバイルコミュニケーションズは11月6日、中国のPHS設備・端末市場で最大手の米UTスターコムと第3世代携帯電話(3G)関連設備の開発・製造会社を共同で設立したと発表した。

 中国の携帯電話事業を統括する松下電器中国の岡本新一・移動通信公司総経理(写真)は同日、日経BP社北京特派員とのインタビューに応じ「UTスターコムは中国で実績もブランド力もある。彼らと一緒にやることで中国の通信キャリアを顧客にできるし、技術的にも相互補完できる」と提携のメリットを強調した。岡本総経理とのやりとりは以下の通り。

――UTスターコムと提携を決めた理由は。

 技術的に相互補完ができるというメリットがある。松下は無線通信に関する技術は強いが、通信機器内部のソフトウエア周りの技術は弱い。その点、UTスターコムの通信機器は中国国内で実績もあるし、ブランド力もある。中国国内で現在実施している3Gの室内試験でも、他の通信機器メーカーよりいい評価を得ている。

 また、UTスターコムは中国国内でPHS事業を広く展開しており、PHSサービスを展開するChina Telecom(中国電信)、China NetCom(中国網通)の両通信キャリアとの関係が深い。UTスターコムと組むことで、3G事業への進出を狙う中国電信、中国網通という大きな顧客を獲得できる。

 UTスターコムとは、PHSの通信モジュール供給を通じて既に良好な関係を長く続けている。実は今回の件も、PHSで知り合ったころからずっと構想を持っていた。発表したのは今日だが、新会社である宇通科技杭州の設立登記はずいぶん前に済ませている。UTスターコム以外の通信機器メーカーと組むという選択肢は元々考えていなかった。

新会社は当面W-CDMAに注力

 新会社はあくまで3Gの通信設備を対象にしたもの。3G対応の携帯電話を共同開発する計画はない。今の時点では松下単独で開発に取り組んでいるし、今後も全く白紙だ。PHS事業は別の枠組みで既に協業関係にあるので新会社の業務の対象ではない。

 新会社の資本金は1000万ドル(約11億円)だが、これはあくまでイニシャルの出資だ。開発を急ピッチで進めるうえで、早期に増資すると思う。出資比率については、松下が過半数(現在は51%)を出資する状況を維持するつもりだ。

 TD-SCDMA(中国独自の3G仕様)の動向も注目してはいるが、新会社では当面W-CDMAに集中してリソースを投入する。松下が今後手がける3G対応携帯電話の開発も同様だ。CDMA2000 1xは日本でもKDDIグループのサービスに参加していないし、今のところ計画はない。

――中国国内での3G商用サービス開始時期をどう見ているか。

 携帯電話も通信設備も、既に室内での試験は始まっている。2004年の旧正月休み(1月22~28日)が明けたころから、エリアを限定した形で屋外での試験を始めるよう、新会社で準備している。

 商用サービスの開始時期は分からない。日本では2004年前半に免許交付、2004年内に商用サービス開始というスケジュールを予測する向きが多いようだが、2005年にずれ込むと見ている人もいる。屋外試験に予想以上長い期間を要する可能性もあり、何とも言えない。

 携帯電話の問題もある。実験レベルの製品はあるが、広く一般消費者の使用に耐えられる、3GとGSM(Global System for Mobile Communications)のデュアル・バンド機は、松下を含めどこの端末メーカーもできていないと思う。実用的な携帯電話が目に見える形で出荷できる態勢にならないと、商用サービスに踏み込めないのではないか。

 通信キャリア間で3Gに対する取り組みに違いもある。現時点でPHS事業しか展開できていない中国電信は本格的な移動体通信への参入を急いでいるし、既にGSM事業で相当の収益を上げているChina Mobile(中国移動)は、乗り遅れまいとは思っているのだろうが、温度差を感じることがある。

――中国などのGSM市場で、松下は存在感を出せていないのでは。

 市場全体でのシェアは低いが、事業としては急拡大している。従来、年間の出荷台数は良くて100万台を超える程度だったが、2004年3月期は200万台を見込めるところまで成長した。

 欧州に続き中国市場へGSM対応機の展開を始めたのが1996年。当時の松下はページャ(ポケットベル)事業が絶好調で、モトローラと世界シェアを二分するほどの勢いだったこともあり、GSMに力を入れてこなかった。当時は、GSMがこんなに伸びるとは思っておらず、気が付いたらGSM事業でノキアやモトローラ、エリクソンなどに大きく引き離されてしまった。

 それに加え、2001年には“ROC事件”注)を起こし、その年は仕事にならなかった。当時は合弁相手との関係も良いとは言えず、一時は撤退も考えた。しかし、2002年10月に出したカメラ内蔵の折りたたみ型携帯電話『GD88』が人気を博した。当時カメラ付き携帯電話はGSM市場の全メーカーで3機種だけ。カメラ内蔵型はGD88だけだった。このインパクトが大きく、一度は地に落ちたブランド・イメージの向上につながった。

注) 中国向け携帯電話の内部に組み込んでいる国番号選択機能の一覧表示で、台湾を“ROC”(中華民国、Republic of China)と表記していたことが判明。政府当局の怒りを買い、携帯電話の販売停止に追い込まれた。

――中国の携帯電話市場は、メーカー間の競争拡大や生産過剰などから販売価格の低下が著しい。

 価格の下げ圧力はあるが、3500元(1元は約13円)以上の高価格帯に対象を絞っていく。この価格帯の販売台数は市場全体の6~7%と少ないが、それでも中国市場はボリュームがあるのでビジネスになる。

 当面は高価格帯で一番になる一方、ミドル・ハイの領域でもブランド・イメージを生かして利益率の高い製品を販売していく。低価格帯に大量の製品を投入するような方法はやらない。製品開発も、自社で手がけるのは上位2~3機種にとどめ、中位以下の機種は他社に委託し、開発リソースを有効に使う。

 スペックのよい製品を開発することはもちろんだが、今後は使い勝手の良いサービスを製品と一緒に提言することを考えたい。日本で培った“ケータイ文化”を中国に持ち込まないと、今後は欧米メーカーや民族系メーカーとの差別化ができなくなると考えている。一般にGSM市場では端末メーカーと通信キャリアとの関係が日本ほど緊密でないが、中国では通信キャリアと共同で独自のサービスを展開していきたい。

(聞き手は金子 寛人=北京支局特派員