写真●時速330kmで走るポルシェと
無線LANの基地局


図●基地局側の構成

 NECは、通信先の無線LAN(IEEE802.11b、実効通信速度5メガビット/秒)の基地局を次々と切り替える「高速IPハンドオーバ」技術を開発した。茨城県つくば市の日本自動車研究所で行った実験では、時速330kmで走行するポルシェ(写真)に搭載したノート・パソコンと、4台の基地局にルーターを介して接続したパソコン(図)との間で通信が可能なことを確認した。基地局の間隔は500m程度だったため、時速330kmで走行した場合は、ざっと5秒に1回の割合で基地局を切り替えたことになる。

 高速に切り替えられるよう、経路の変更時にやり取りするメッセージを100バイトと短くした。ノート・パソコン側には2枚の無線LANカードを挿し、それぞれ別の基地局と通信することで、基地局の切り替えにかかる時間を10ミリ秒程度に短縮した。

 音声や動画データを送受信しても(今回の実験ではマイクロソフトの電子会議ソフトNetMeetingを利用)支障がないよう、基地局を切り替えた瞬間にパケットが破棄されないようにする工夫も盛り込んだ。サーバーから送られてくるパケットは、次の移動先となる基地局にもあらかじめコピーを送信する。これによって、ノート・パソコンでは連続してパケットを受信できる。「高速道路が分岐しているような場合、2方向のルーターにコピーしたパケットを送ることも可能だ」(NECの水越康博ネットワーク開発研究本部IPプラットフォーム開発研究部主任)。

 この技術を使うと、列車内や高速道路を走る車の中から無線LANで通信できるようになる。NECの長坂康司ITSソリューション推進本部エンジニアリングマネージャーは、「鉄道会社が興味を示して『実証実験をしたい』という問い合わせをしてきた」という。「列車で利用する場合は、列車の外部に無線LANのアンテナを取り付け、列車内は別のネットワークを利用することになるだろう。メールの送受信などユーザー個別の通信も可能だ。Webサーバーへのアクセスは列車内にキャッシュ・サーバーを置いて、通信を効率化することも検討する」(同)。

(坂口 裕一=日経コンピュータ)