米トランスメタは10月15日、ノート・パソコン向けの新型プロセサ「Efficeon」を発表した。既存製品のCrusoeと比べ、大幅に性能を向上させた。同社によると「アプリケーション・ソフトの動作速度が最大50%向上した」という。シャープと富士通が同プロセサを搭載したノート・パソコンを近く発表し、2003年末から2004年始めにかけて発売する見通し。日本法人が東京で開いた発表会では、シャープが試作したEfficeon搭載ノート・パソコンが実際に動作していた(写真)。

 EfficeonがCrusoeより50%も性能が向上したのは、同時実行できる命令数が増えたからである。EfficeonはCrusoeと同じく、x86命令をソフトウェアにより独自のVLIW(Very Long Instruction Word)命令に変換して実行する。CrusoeではVLIWで同時に実行できる命令数は最大4個だったが、 Efficeonはこれを8個に増やした。

 ただ、Efficeonには米インテルのPentium Mという強敵が存在する。Efficeonの消費電力や性能は、Pentium Mと比べてそれほど優れているわけではない。トランスメタが年内に量産出荷を始めるEfficeonシリーズの最初の製品「TM8600」は、Crusoeと同じ0.13μmの製造ルールで作る。動作周波数は1GHz、1.1GHz、1.2GHz、1.3GHzの4種類。消費電力は、それぞれ5W、7W、12W、14Wである。一方、Pentium Mは超低電圧版の900MHzから通常電圧版の1.7GHzまでの製品ラインアップがある。超低電圧版Pentium M 900MHzの消費電力は7Wで、TM8600 1.1GHzと同じである。つまり、Efficeonが消費電力でPentium Mに勝っているのはTM8600 1GHzだけとなる。

 さらにEfficeonは性能面でPentium Mに大きく水をあけられている。トランスメタが、消費電力がほぼ同じTM8600 1.1GHzと超低電圧版Pentium M 900MHzの性能を比較したところ、「両プロセサを搭載したパソコンの性能はほぼ拮抗している」という。同一動作周波数ではPentium Mの方が高性能だということになる。現在の最大動作周波数はEfficeonが1.3GHzなのに対し、Pentium Mは1.7GHzである。

 この差を埋めるべく、トランスメタは2004年後半に製造プロセスを0.09μmに向上させたEfficeonシリーズの第2弾「TM8800」の量産出荷を始める。1.0GHz(消費電力3W)、1.4GHz(同5W)、1.6GHz(同7W)、1.8GHz(同12W)、2.0GHz(同25W)の5製品を予定している。ただインテルはそれに先駆け2004年前半に、0.09μmプロセスを採用したPentium Mの量産出荷を予定している。新型Pentium Mの登場で、Efficeonはさらに苦しい戦いを強いられる公算が大きい。

 Efficeonの採用を表明しているのは、シャープ、富士通、ジェイエムネット、米ヒューレット・パッカード(HP)など14社。シャープと富士通はEfficeon搭載ノート・パソコン、ジェイエムネットはブレード・サーバ、HPはタブレットPCやシン・クライアントなどを製品化する見込み。Crusoe搭載ノートを販売していたNECやソニーといった大手パソコン・メーカーも「Efficeon採用の検討はしている」(日本法人の村山隆志社長)というが、これらのメーカーの採用を勝ち取れるかどうかは未知数だ。

 日本のパソコン・メーカーは、薄型軽量のノート・パソコンに低消費電力の1.0GHz版や1.1GHz版のEfficeonを採用する見込み。米国では薄型軽量ノートのニーズはそれほどないため、米国メーカーは、消費電力の比較的大きな高速製品の採用を検討しているという。セットトップ・ボックスなどへの搭載を想定して2次キャッシュ容量をTM8600の半分である512Kバイトに減らした「TM8300」や小型パッケージを採用する「TM8620」といった派生品の計画もある。

大森 敏行=日経コンピュータ