松下電器産業は、次世代プロトコルとして注目が集まる「IPv6」だけでなく、既に“枯れた”技術である「IPv4」についてもさらなる開発を進め、二正面作戦でネット家電の製品ラインの拡大を図る。10月1日、ネット家電の普及に向けた戦略説明会で「当面は普及したIPv4を生かし、IPv6のメリットを素直に享受できる段階になったら順次切り替えたい。2つの技術を発展させ、デジタル・テレビやDVDレコーダをはじめとする家電に次々と搭載していく」(櫛木好明常務取締役)と宣言した。

 IPv6をネット家電に採用する利点は多い。IPアドレスの総数は、現行のIPv4が2の32乗個しかないのに対して、IPv6の場合は2の128乗個とほぼ無限である。IPv6を使えば、家庭内のあらゆる機器にグローバル・アドレスを割り当てて、インターネット側から機器を制御することが容易になる。このため、家電メーカー各社は競ってIPv6関連技術の開発を進めている。

 ただし、その普及にはインターネット・プロバイダ側の機器更新など、まだ高いハードルがあるのも事実。そこで松下電器は、IPv4を独自のネットワーク・サービスで補完し、IPv6と同様の使い勝手を実現する方針だ。

2つのネットワーク技術を発表

 これに関連して松下電器は同日、2つの技術を発表している。(1)安価にIPv6の処理を高速化できる技術、(2)IPv4の弱点を補完して家庭内のネット家電を外部からリアルタイムに操作可能にする技術である。

 (1)は従来、IPv6搭載機器において大きな負荷となってきた、セキュリティ関連の計算処理を軽減する技術である。松下電器によると、従来のIPv6通信では、IPsecによるデータの暗号化/復号化処理をソフトウエアで行っていたため、この計算処理の負荷が高かったという。同社はその処理をCPUから専用チップに移し、処理時間を従来の約半分にすることに成功した。これにより、安価なCPUを搭載した家電でも100Mビット/秒の高精細動画をIPv6でやりとりすることが可能になった。通信モジュールのプログラム・サイズも従来比で1/3に収めた。

 (2)は、既存のIPv4環境において、IPv6並みの使い勝手を実現する技術。例えば、携帯電話からインターネット経由で家庭内にあるDVDレコーダにアクセスし、録画予約を即時に行うことが可能になる。このような場合、従来は、インターネット上に携帯電話からアクセスできる予約専用サーバーを配置し、十数分おきにDVDレコーダがその内容を問い合わせる方法(ポーリング)が一般的だった。しかし、これでは放送直前に予約しても、このタイムラグのために番組を頭から録画できない不具合が生じる可能性があった。

 今回発表した技術は、松下電器が専用サーバーを運営し、インターネット上から家庭内の機器にリアルタイムにアクセスできるようにするものである。同社のサーバーは機器のIPアドレスを常に監視し、DVDレコーダとサーバー間で常にセッションを維持する。携帯電話からの予約があったとき、即座にレコーダにその情報を飛ばすことができる。松下電器は中近東の串焼き料理にちなみ「KEBAB(ケバブ)」と呼んでいる。家庭内ネットとインターネットを串刺しにするという意味がこめられている。

 KEBABは、松下電器が運営するサーバーと、機器に搭載するソフトウエア・モジュールで構成される。技術発表は今回が初めてだが、既に今年4月から対応製品を出荷中である。DVDレコーダ「DIGA E200H」や、タッチパネル搭載の家庭内ネットワーク端末「くらしステーション」に搭載されている。

(本間 純=日経コンピュータ)