米IBMのケネリーVP 「研究所で勤務する研究員を顧客のプロジェクトに参加させる取り組みを始めたところ、大きなメリットがあった」。米IBMのペギー・ケネリー バイス・プレジデント(VP)はこう明かす。米IBMは昨年11月から、米国のワトソン研究所をはじめとする、全世界8研究所の研究員を顧客のプロジェクトに送り込む「オンデマンド・イノベーション・サービス」を実施している。

 同サービスの担当VPであるケネリーVPは、「顧客企業から技術的に高いレベルの要求を投げかけられたとき、現場のコンサルタントやエンジニアだけでは解決策を提示できないことがある。こうしたとき顧客が抱える課題を研究対象としている研究員がいれば、顧客の課題を速やかに解決できる」と、その効果を強調する。

 研究員にも、同サービスに参加するメリットがあるという。「自らの研究が実戦の場で役立ったことを目の当たりにできるからだ。これは研究員にとって魅力的」(ケネリーVP)。

 ケネリーVPによれば、オンデマンド・イノベーション・サービスの立ち上げを聞いた研究員たちは、当初必ずしも喜ばなかったという。「スーツを着て客先に行かなければならないのかと窮屈に感じたり、貴重な研究の時間が奪われてしまうのではと心配したりする研究員が少なくなかった」。

 ただ、研究員たちの心配は杞憂に終わった。「顧客のプロジェクトに参加するといっても、あくまで技術的な課題にかかわるやり取りが中心。毎日朝から晩まで客先に出向いているわけではない。例えば2年間のプロジェクトでも、研究員が出動するのは最初の1年間だけ週に1回といった具合である」(ケネリーVP)。

 研究員が新サービスのメリットを感じ始めていることについて、ケネリーVPは「目論見どおり」と打ち明ける。「IBMはサービス・ビジネスを標榜しているが、従来は研究員にとって自分たちの仕事がどれだけサービスの価値を高めることができるのかといった実感がわきにくかった。技術レベルでは世界トップクラスの研究員たちが、サービス・ビジネスを強く意識しながら研究に取り組むことができれば、IBMとしては鬼に金棒だ」。

 ケネリーVPによれば、世界で合計3000人の研究員のうち、40人が新サービスを経験した。日本でも、ある製造業の生産管理システムにおける生産計画の最適化にかかわる取り組みなどで、研究員がプロジェクトに参加している例があるという。

大和田 尚孝=日経コンピュータ