清水建設はIPv6を使ったビル管理システムを開発した。自社の施設内で6月から実証実験を行っている。

 ビル管理システムは、ビル内の電気、空調、防犯、防災などの機器を監視・制御するもの。これらの機器の通信プロトコルにIPを採用すること自体が珍しい。清水建設が構築したシステムでは、照明の点灯/消灯、施錠の確認、ブラインドの上げ下げ、温度計などの環境設備の確認が可能だ(写真1)。

写真1●清水建設のIPv6を利用したビル管理システムの実験概要
写真1●清水建設のIPv6を利用したビル管理システムの実験概要

 ビル機器を一元管理できるビル管理システムはすでに実用化されているが、ビル監視・制御専用の通信プロトコル「LonTalk」や「BACnet」が使われてきた。清水建設の大山俊雄情報ソリューション本部システム計画部グループ長は、「ビル管理システムは、通信頻度も1回当たりの通信データ量も少ない。にもかかわらず、LANとは別に専用の機器や配線を敷設しなければならず、無駄な費用がかかっていた」という。

 ビル管理システムをIP化するメリットは、普及が進みつつあるIP電話のメリットと似ている。LANを使えるためネットワーク機器や配線を流用できる。機器の追加や変更があった場合でも、簡単に接続可能だ。「無線LANを使えば配線の手間すら不要になる。LonTalkなどの場合は、ハブに当たるゲートウエイ装置を1フロアか2フロアに1台くらいしか設置していないことが多く、機器を追加・変更する場合の手間が大きい」(大山グループ長)。

 清水建設がIPのなかでも、IPv4ではなくIPv6に注目した理由は三つある。一つは、グローバルIPアドレスを大量に使えること。二つめはセキュリティ面での優位性、三つめは機器の設定が簡単なことである。

 清水建設の実験では、Webブラウザからビル機器を操作できるようにしている。IPv6ではグローバルIPアドレスを大量に使えるため、複数のビルをインターネット経由で一元管理することが可能だ。大山グループ長は、「一つのビルには管理すべき機器が1000や2000あるのが普通。将来、複数のビルを一元管理して管理コストを下げるには、IPv4だと難しい」と語る。

 外出先からの遠隔操作も可能になる。今回の実験では、無線LANでつないだWebブラウザ搭載のPDA(携帯情報端末)からも、ビル機器を操作できるようにしている(写真2)。今のところ、無線LAN機器に以前から社内で使っていたIPv4対応のものを使っているため、無線LAN経由で操作する場合はIPv4で通信している。無線区間もIPv6対応になれば、ホットスポットなど外出先からの遠隔操作も可能になる。

写真2●PDA(携帯情報端末)からビル機器を直接操作できる
写真2●PDA(携帯情報端末)からビル機器を直接操作できる
 

 外出先から操作・制御する場合はセキュリティが問題になるが、「IPv6はIPv4に比べてセキュリティ面で優れている。暗号化通信が容易に使えるからだ」(大山グループ長)。IPv6は、暗号化機能や認証機能を持つIPsecを標準仕様として組み込んでいる。

 またビル管理システムの管理対象となる機器には、IPアドレスの設定機能や接続先の設定機能を持たないものが多い。このため設定の簡単さも重要になる。IPv6には、IPv4で必要になるDHCPサーバーなしでも、機器をネットワークに接続するだけで、重複しないIPアドレスを自動的に生成する機能がある。機器を追加・変更するときの手間が省ける。

 大山グループ長は、「今後、IPv6通信が可能なビル機器が増えていけば実証実験に加えていきたい。もっとIPv6に対応した機器が増えて欲しい」と語る。

 ただし、「機器の増加に関しては、心配なことがある」ともいう。「IPv6上で監視・制御に使う、アプリケーション層のプロトコルの仕様が標準化されていない。このため、同じビル内でもA社のエアコンは制御できるが、B社のエアコンが制御できない、といったことになりかねない」(同)。

 そのため、清水建設を含むIPv6推進企業や団体が参加するIPv6普及・高度化推進協議会では、「ビルディングオートメーション小分科会」を設立し、仕様の標準化を進めている。大山グループ長は「独自仕様が乱立しないように、今後1、2年で標準化をする必要があるだろう」という。

 また、すべてのビル機器をIPv6で管理するには、法令上の問題もあるという。「火災報知器のように、法令で専用の通信線を使うことが義務付けられている機器は、インターネット経由での管理などはできない。保安上重要な設備・機器には“通信線が切れていることを検知できる”機能が要求されるためだ。これらには専用のネットワーク機器や配線が必要になる」(大山グループ長)からだ。

(鈴木 孝知=日経コンピュータ)