「システムで扱うデータ量が増えてくると、機械的にテープに落として保管する。このような行為を当たり前のようにやっている企業はいまだに多い。これでは、せっかく集めたデータが“死蔵”してしまう。有用なデータを死蔵させずに活用する仕組みを企業は作るべきだ」。米EMCのクリス・ゲヘイガン ストレージ・インフラストラクチャ・ソフトウエア上席副社長(写真)はこう主張する。

 EMCは今年に入り、データ管理の新手法であるILM(インフォメーション・ライフサイクル・マネジメント)に基づくストレージ戦略を打ち出している。ILMはデータの重要度や鮮度、ユーザーの利用頻度に応じて、データの保存に使うストレージ機器を変えていく手法を指す。

 例えば、作成したばかりで利用頻度の高いデータは高い処理能力のディスク・アレイ装置に、時間がたって利用頻度が低くなったデータはより安価なストレージに、ほとんど利用しなくなったデータはテープ装置に保存する。こうすることで、企業に必要なデータは常に読み書きしやすいディスクに保存されることになる。

 ただし、ILMを打ち出しているのはEMCだけでない。そのほかの欧米のストレージ・ベンダー各社も最近、ILMを盛んに唱えている。ゲヘイガン上席副社長はこれに対し、「ILMを実現するためのハードやソフトを全分野でそろえているのはEMCだけだ。当社の製品を使ってILMを実践している企業も出始めている」と自信を見せる。

 ゲヘイガン上席副社長は、他社との差異化を図る製品として、「安価なシリアルATAディスクを使ったストレージ装置と、アプリケーション・レベルでデータの重要度などを判断できるソフト」を挙げる。

 シリアルATAディスクのストレージ装置は安価で、日々の業務に使える程度の読み書き速度を持つ。データの読み書きは速いが高価なディスク・アレイ装置と、データの読み書きは遅いが安価なテープ・ライブラリ装置の間を取り持つ機器として注目を集めている。数週間前のデータ、あるいは数カ月前のデータのようにアクセスが少なくなったデータや、バックアップ・データの保存などに使う。

 アプリケーション・レベルでデータの重要度などを判断するソフトは、もともとストレージ管理ソフト・ベンダーの米レガート システムズが扱っていた製品。EMCは7月にレガートを買収することで合意した。ゲヘイガン上席副社長は、この買収も「ILMを実現する取り組みの一環」と説明する。「データの保存期間や重要度はアプリケーションごとに異なる。データの移し替え作業を自動化するには、レガートの製品でアプリケーションの特性をシステムが把握できるようにする必要があった」(ゲヘイガン上席副社長)。

鈴木 孝知=日経コンピュータ