楽天は9月4日、宿泊施設の予約、航空券の予約などのサービスを提供するWebサイト「旅の窓口」を運営するマイトリップ・ネットの全株式を日立造船から買収すると発表した。買収金額は323億円である。

 ネット・バブル崩壊後、多くの電子商取引(EC)サイトが楽天かヤフーの傘下に収まった。旅の窓口は、両グループに属さずに残った“最後の優良物件”である。楽天は、マイトリップ・ネットの年間売上高の約10倍に達する323億円の投資も惜しくないと判断したようだ。(マイトリップ・ネットの2002年度の売上高は32億円、経常利益は11億円。ちなみに、楽天の2002年度の連結売上高は99億円、連結経常利益は22億円である)。楽天の三木谷浩史社長は「一切、迷いはなかった」と語る。

 楽天と日立造船との間で買収交渉が具体化したのは1カ月前という。しかし、楽天は2年以上前から旅の窓口を買収する意思を持っていたようだ。

一時は“旅窓”対抗に動いたが

 楽天は、2000年4月の店頭公開を機に企業買収を繰り返し、ポータル・サイトの「infoseek」や「Lycos」、ゴルフ場予約サイトなどを次々に手に入れてきた。ヤフーに対抗してECの売上を拡大する上で、日立造船グループの社内ベンチャーから旅行予約サイトの最大手に成長した旅の窓口は、のどから手が出るほど欲しい物件だった。

 ところが、日立造船が旅の窓口を手放さないと見るや、2001年3月に子会社「楽天トラベル」を設立し、自ら旅行予約サービス事業に乗り出した。その後、旅の窓口の運営に携わってきたスタッフを引き抜くなど、露骨とも思える手法で楽天トラベルの強化を図ってきた。日立造船が本業の不振から旅の窓口を手放すと決めた時、楽天は迷わずその買収に動いたわけだ。

   三木谷社長は、楽天市場やinfoseekとのシナジー効果によって、早期に買収金額に見合う収益増を図るとしている。具体的には、会員IDの共通化、ポイント制度の導入、システムの統合などを実施する。しかし、当面は旅の窓口と楽天トラベルの両ブランドを残し、人員削減は行わない。

(本間 純=日経コンピュータ)