「『基本ソフト、ウイルスに強く――経産省、民間とチーム』経済産業省はコンピューターウイルスの攻撃に強い基本ソフト(OS)づくりに乗り出す…」。8月28日付の日本経済新聞朝刊に、このような記事が掲載された。内容を額面通りに受け取ると、日本政府がLinuxやトロンをベースにした独自OSを2005年度までに完成させるという、大スクープである。結論から言うと、この記事は飛躍しすぎであり、実現の可能性はほとんど見えていない。

 記事の内容をまとめると、こうだ。「来年度中に民間のシステム会社なども交えた開発チームをつくり、Linuxやトロンを改良したOSを2005年度までに完成させる。防衛庁など機密情報を扱う政府部門での採用を目指し、将来は民間企業にも開放する。ウイルスが侵入してカーネルが被害に遭った場合、自動的に修復する機能を導入する」。

 日経コンピュータの取材によると、経産省は来年度から、Linuxなどオープン・ソースOSのセキュリティを高めるための技術や、電子政府で採用する前提でどのような機能が要求されるのかについての調査研究を始める。しかし、経産省が主体となってOSそのものを開発する事実はなく、来年度に民間企業と共同で独自OSの開発に乗り出す事実もない。

 記事の根拠は、経産省が提出した来年度予算の概算要求にある。電子政府行政情報化事業として、6億円を要求している。そのなかの1億円を、「セキュアOSに関する調査研究費」に充てる計画だ。あくまで要求なので、予算が下りる確証はないが、仮に下りれば、来年度からセキュアOSに関する何らかの研究会が発足することになる。

 ここで言うセキュアOSとは、高度なセキュリティ機能をOSレベルに実装するためのミドルウエアとオープン・ソースOSの組み合わせ、もしくは、高度なセキュリティ機能を実装したオープン・ソースOSのことである。前者のようなミドルウエアは韓国のソフト会社「セキュブレイン」などが提供している。後者は国内の大手インテグレータなどが開発を進めている模様。

 経産省はこれらセキュアOSを電子政府で採用するにあたって、どこまでのセキュリティ機能が必要か、どんなシステムに適用するのか、といったことを、1億円の予算内で調査しようとしているのだ。要は、Windowsに代わる第2の選択肢の実用性や実現性を見極めようとする試みである。すでに総務省が同じような試みを今年度に実施しており、別段、目新しい取り組みとは言えない。

 ただし、総務省の「セキュアOSに関する研究」は今年度限りで終了し、来年度は継続しない。そのため、政府のセキュアOS採用の実現性は、事実上、経産省に委ねられることになる。「電子政府の脱Windows」に向けた政府の取り組みは、今年度に引き続き、来年度も続くことになるが、まだ第一歩を踏み出したばかり。その可能性はまだ見えていない。

井上 理=日経コンピュータ