沖電気工業は、高機能の現金自動預け払い機(ATM)を中国本土市場に投入する。小柄なきょう体、取引機能の豊富さなどの特徴を持つ中国向け機種「ATM21S」(写真)を8月26日に発表。2004年1~3月をめどに出荷開始する。欧米企業の独壇場となっている中国ATM市場にハイエンド機で売り込みを掛け、悲願の受注獲得を目指す。

日本向けと同等の機能を実現

 同製品の最大の特徴は、機能の豊富さにある。最も利用頻度の多い出金だけでなく、入金と記帳の機能を装備。入金可能な券種は100元、50元、20元、10元の4種類、出金は100元と50元の2種類に対応する。入金された紙幣を出金用として再利用する還流式の運用も可能だ。

 銀行店頭で顧客が直接操作する機器は、中国でも都市部を中心に普及している。しかし「まだ中国市場では現金支払機(CD)が大半」(服部隆執行役員金融ソリューションカンパニープレジデント)。銀行の店頭に出金機、入金機、記帳機などをそれぞれ設置するケースが多く、1台で複数の機能を提供する機器はほとんど見られない。取り扱い券種も最高額の100元紙幣だけという機械がほとんどだ。こうした状況を踏まえ沖電気は、ATMサービスで他行との差別化を図れる高機能機としてATM21Sを売り込む。製品の外形寸法を、中国で普及しているCDと同サイズの幅470mmとして、旧型CDの更新需要も取り込めるようにした。

 同製品はこのほか、(1)一度の操作で200枚投入できる入出金トレイ、(2)最大1万4000枚を収納可能な紙幣ユニット、(3)紙幣の詰まりを自動的に取り除く機能、(4)1角や5角などサイズの違う小額紙幣を入金直後に見付けるセンサー、(5)きょう体内部への砂の進入を防ぐため内部気圧を高くする機構、(6)防犯性を高めるため紙幣ユニット外側に採用した厚さ12.5mmの鉄板──など、中国市場でニーズが高いと思われる機構を多く採用し、他社製品との差別化を図る。

 入出金などのトランザクション手順は、中国で普及している米ディーボルド、米IBM、米NCRの各手順に準拠。端末アプリケーション開発には、世界各地のATMで採用実績の多い英KALの「Kalignite」を採用し、導入先の各行が独自にソフトウエアをカスタマイズできるよう配慮しているという。価格は約50万元(1元は約15円)。CDの1.5倍程度の価格設定とし、単機能の機械を複数台購入するのに比べ値ごろ感を持たせた。とは言え「大量に出荷できればコスト削減も可能になるが、現状では同程度の機能を持つ日本市場向け製品より若干高め」(服部プレジデント)の水準という。

欧米メーカーが押さえる中国市場、一矢報いるか

 現在中国のATM、CD市場の大半を占めているのは、NCRやディーボルドを中心とする欧米メーカーだ。沖電気やオムロン、日立製作所、富士通など日系メーカーの機械は、中国でほとんど導入されていない。服部プレジデントも「何度か中国市場に挑戦しているが、現時点でまだATMの販売実績はない。グローバルに事業展開するNCRやディーボルドが販売台数を伸ばす一方、日本企業は中国ビジネスが得手ではなかった」と中国展開の難しさを認める。

 日系メーカー各社は日本国内で激しくしのぎを削り、その過程で機能、性能の向上を図ってきた。その結果、日本国内のATMは、通帳のページめくりから紙幣の殺菌に至る細かい機能を備え、出金処理の所要時間を秒単位で競ってきた。しかし中国を含め日本国外の市場では、こうした細かい仕様は過剰と見なされていた。結果として販売網や保守、そして価格などの点で優位に立つ欧米企業の寡占を許してきた。

 とはいえ、中国国内のATM、CD普及台数は2001年末で約3万8000台。銀行の店舗数(約12万9000店)に比べ、設置率は29%とまだ少なく、普及の余地は大いに残されている。また、北京や上海など大都市で店舗外のATM、CD設置が増えていること、国有四大銀行(中国銀行、中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行)を中心に銀行間の競争が激しくなっていることなどから、今後は多機能ATMの普及の可能性があると沖電気では見ている。中国国内における2001年のCD出荷台数は6274台、これに対してATMは589台と大きな開きがある。これが2005年には、CD8500台に対しATM7000台と、ATMの市場が拡大してくると同社は予測する。

 好材料もある。日立製作所は2003年5月、大手商業銀行の交通銀行から還流式ATMの受注を獲得した。台数は63台、受注金額約5億円と決して規模は大きくないが、多機能ATMに関心を示す銀行は現れ始めている。販売活動や保守サービスの充実度などで課題は残るものの、こうした導入事例が成功すれば、日系メーカーが欧米メーカーに一矢を報いる可能性もある。

 沖電気は9月に北京で開催される「中国国際金融展」でATM21Sを実演展示し、中国の銀行に導入を働きかける。「日本のATM市場における沖電気のシェアは40%。中国でも2005年をめどに、ATM市場で30%くらいのシェアを取りたい」(服部プレジデント)。同社にとって、日本流の高機能ATMが中国市場で受け入れられるかどうか、ここが勝負どころになる。

(金子 寛人=北京支局特派員)