8月25日、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)が本格稼働した。希望者に対する住基カードの交付が始まった。これにより、住民票の広域交付や転入転出に伴う手続きの簡素化が可能になった。さらに全国の地方自治体は、住基カードを使った独自の行政サービスを行うこともできる。行政機関の住基カードに対する期待は高い。

 だが、住基ネット本格稼働は、住基カードの配布数だけでみると静かな船出となった。東京23区の中で最も住基カードの独自利用サービスに積極的な荒川区でさえ、25日に住基カードを受け取ったのは40人。事前に住基カードの交付を申請した住民は50人だった。

 住基カードを使った独自サービスを日本で最も進めている岩手県水沢市でも、25日に住基カードを受け取ったのは23人だった。もっとも水沢市によれば、「平日ということもあり、社会人のなかには住基カードを受け取りに来るのが難しかった人もいるのではないか。無理をして初日に受け取る必要があるカードでもない。当市ではすでに613人が住基カードの配布を申し込んでいる。最終的には市民の約半数が住基カードを利用するようにしたい」という。

 一方、今回の本格稼働に際してシステム面では若干の波乱が起きた。システムの運用を開始した午前9時から10時までの間、一部の市町村で住基ネットの処理速度が遅くなるというトラブルが生じたのである。

 トラブルの原因はある種の運用ミスといえる。本格稼働に伴って、多くの地方自治体が住基ネットを使って本人確認を試みたが、本人確認の方法が的確でなかったためシステムに負荷がかかってしまった。総務省によると、「一日分のアクセスが1時間の間に集中したようだ」という。

 住基ネットを利用して本人確認する場合には、11ケタの住民票コードか、基本4情報といわれる氏名・住所・生年月日・性別の情報を入力してデータベースを検索する。このとき、住民票コードか氏名と住所を入力した場合には、本人が住んでいる自治体の住基ネットのデータベースに直接アクセスして本人確認できる。だが、氏名と生年月日を入力した場合には、確認しようとしている人物の住む自治体が特定できないので、全国民の情報を一元管理している住基ネットの「全国サーバー」のデータベースにアクセスして、本人確認する必要がある。

 25日朝には、住民票コードや住所を入力せずに本人確認しようとした自治体職員が多数いたために、全国サーバーへアクセスが集中して処理速度が遅くなった。全国サーバーを運用している地方自治情報センター(LASDEC)によれば、「これまで全国の自治体職員は、同じ自治体内部の住民を対象にして業務を行ってきたため、システムを操作する場合に住所を打ち込む習慣があまりない。これまでと同じ感覚で住所を入力せずに操作した結果、全国サーバーへ問い合わせが殺到したのではないか」と話す。

(中村 建助=日経コンピュータ)