長野県側の出席者である桜井氏 8月5日、長野県と総務省による、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を巡る公開討論会が都内で開催された。長野県の本人確認情報保護審議会が今年5月、住基ネットのセキュリティ問題などを指摘した第1次報告を発表したことを受けて開かれた。

 「住基ネットはボロボロだ。そもそも国が押し付けたシステムなのに、自治体に責任とコストを負担させるのは間違っている」。討論会の冒頭、長野県側の出席者で県内の市町村の混乱ぶりを紹介したジャーナリストの桜井よしこ氏は、こう発言した。担当者が知識も予算もない状態で、対応に追われている現状を説明。ネットワークの末端にあたる市町村で十分な対策がなされていないため、住基ネットから住所や住民基本台帳番号などの個人情報が流出する可能性を指摘した。

 これに対して、総務省側は「基幹ネットワークについては24時間体制の監視体制を敷いているほか、第三者によるセキュリティ監査を実施しており問題ない」(自治行政局市町村課の井上源三課長)と主張した。その一方で「市町村についてはそれぞれに責任を持って対策するようにお願いしている」(井上氏)と説明した。

 これに長野県側が納得するはずもない。長野県側の出席者でセキュリティ・コンサルタントの吉田柳太郎氏が、「総務省が監査の基準や結果を明らかにしていない現状では住基ネットを信用できない。早急に侵入テストを実施し、結果の公開も検討するべき」と強く迫った。

 新たな対立のタネもまかれた。討論会で総務省側が住基ネットを電子商取引(EC)の本人確認手段を国や自治体が提供する、公的個人認証のインフラとして利用する構想を改めて説明したことだ。討論会終了後、長野県側は「住基ネットを間接的に民間に開放すれば、危険性はより高まる。今後、国が公的個人認証インフラをどのようなネットワークにするのか、注意深く見守る必要がある」とした。

 討論会場には長野県の田中康夫知事も姿を見せた。会場後方で両者の討論を聞き入っていた田中知事は閉会後、報道陣に「国が自治体に対して果たす責任について、総務省側から最後まで明快な答が得られなかったのは残念」、「e-Japanの下で進められている自治体情報のオンライン化も箱モノ幻想に過ぎないのではないか」とコメントした。

本間 純=日経コンピュータ