「日本の製造業では、業務効率を上げることの意味は薄れた」。組み立て型製造業向けに特化してビジネス・コンサルティングやシステム開発を手がけるネクステックの山田太郎社長は断言する。「業務を効率化して商品を大量生産できるようになっても、顧客ニーズはすぐに変わってしまう。もはや大量生産は商品開発コストの低減には役立たない。中国に建てた工場を日本に戻す企業や、生産ラインを多品種・少量生産に向くセル生産方式に切り替えている企業がいるのはその象徴だ」。

 同じ理由から山田社長は、「ERPパッケージ(統合業務パッケージ)、SCM(サプライチェーン管理)ソフトなどのような“商品の量”を管理するシステムは、今後必要性が低くなる」と主張。量を管理することより、顧客ニーズを捉えることが重要だという。「顧客ニーズを捉えた商品は多少価格が高かったり、需要予測を間違えたとしても売れる。逆に顧客が求めていない商品はどんなに立派な需要予測システムや在庫管理システムがあっても売れない。値下げして利益が出ないという悪循環になる」。

 「今後製造業が構築すべきなのは、顧客ごとにニーズを汲んで仕様を決めるために、商品企画、設計・開発、生産、調達、組み立てなどの各部門で商品の仕様を共有するためのシステムだ」(山田社長)。このようなシステムは一般にPLM(プロダクト・ライフサイクル管理)システムと呼ばれる。

 「PLMシステムを構築するための大前提は、部品表データの定義だ。しかし、これができていない企業が多い」と山田社長は指摘する。ツリー構造になる部品表をよく調べると、部品番号に重複があったり、部品の親子関係がループしている場合などがあるという。

 「部品データの定義やデータ・モデリングは非常に難しい。釘1本、ねじ一本の単位で把握するのは不可能に近い。部品点数が数万点におよび、部品表をメンテナンスすることが事実上できなくなってしまう。かといって安直に、部品データの最小単位に部品の発注単位を使ってしまうと、発注先を容易に変えられなくなる」(山田社長)。

 このため、将来を見据えたうえで適度な“部品の固まり”でデータを定義しなければいけない。しかし、「パッケージ・ベンダーや業務コンサルティング会社に適切なデータの定義はできない。データの定義はユーザー企業の仕事と割り切っている」と山田社長は断言する。同氏はアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)やPwCコンサルティング(現IBMビジネスコンサルティングサービス)、ERPパッケージ・ベンダーのバーン ジャパンに所属した経験がある。

 「誰もやらない分野なので、当社のコンサルティングは特に部品表のデータ・モデリングに注力している」(山田社長)。例えばその注意点として、「部品データの“固まり”の意味は何か、用語の統一はできているか、部品のリビジョン(改訂)番号のつけ方のルールはどうなっているのか、紙での管理から電子データによる管理の移行時期にどちらのデータをどの段階まで『正式』なものとして採用するか、といったことまで規定しなければいけない」という。

(矢口 竜太郎=日経コンピュータ)