米ボーランド・ソフトウエアのピーター・コード上級副社長 Delphi、JBuilderなどの製品を持つ米ボーランド・ソフトウエアの上級副社長(最高経営戦略担当)ピーター・コード氏が来日し、日経コンピュータの取材に応じた(写真)。氏はボーランドが2002年に買収した米トゥゲザーソフトの創設者で、会長、社長兼CEO(最高経営責任者)を務めていた。開発手法の一つFDD(Feature Driven Development)の提唱者としても知られる。取材の要旨は以下の通り。

──ボーランドに移ってきて、どんな仕事をしているのか。
 チーフ・エクゼクティブ・ストラテジスト、とか、チーフ・ストラテジ・オフィサーとか、そういう名前で呼ばれる仕事をしている。社長兼CEOのデイル・フラーに直接報告をするのはボーランドに5人いて、その中の一人だ。でも、部下はいないし、ビジネス上の責任も、達成すべき予算もない。顧客の話を聞いて理解し、ボーランドの進むべき道を考える。考えるのが私の仕事だ。

──トゥゲザーソフトという会社をどう総括するか。
 私は1986年にオブジェクト・インターナショナルという会社を作って活動をしていたんだけれど、1989年ごろに、モデル・ベースのソフト開発ができるんじゃないかと考えた。人間には右脳と左脳があって、右脳は空間的、視覚的な能力を、左脳は言語的、論理的な能力をつかさどっている。私は右脳的な人間で、あまり論理的じゃないんだ。それで、モデルを視覚的、空間的に把握してソフトを開発できればいいだろうと思ったわけ。1993年にドイツ人のディートリッヒ・カレシアス(Dietrich Charisius)に会って、彼がそのコンセプトを現実のものにしてくれた。1994年にC++言語で開発をするための「Together C++」を、1998年にJava言語用の「Together J」をリリースした。これらの製品と、99年にオブジェクト・インターナショナルが社名を変更して発足したトゥゲザーソフトは大きな成功を収めたと言っていいだろう。先ごろ米IBMが買収した、米ラショナル・ソフトウエアの良き競合相手だったと思う。

 一方で、我々はボーランドとは1995年くらいからいい関係を保ってきた。ボーランドのJava開発ツール「JBuilder」がモデリング機能を備えようとする段階に達したとき、欲しいのはTogetherだった。2001年12月に話があり、2002年10月に一緒になった。私も、ディートリッヒも、ボーランドで働くことになった。

──これからのボーランドの戦略は。
 今後2~3年の間では、ソフト開発者にグレートなユーザー体験をしてもらうようなものを提供したい。今でもボーランドのALM(Application Lifecycle Management)製品は、ユースケース図、シーケンス図、ソース・コードなどが密につながった開発環境を提供しているけれど、それをもっと徹底させる。学んだり使ったりするのがもっと容易で、より多くの満足感を与えるもの。ビジュアルでテクスチュアルなもの。「巨大並行開発(massively paralleled development)」みたいなもの。そんなイメージだ。

 具体的には、「Primetime 2」という開発ツールの共通プラットフォームを作っている。ダイヤグラム・エディタ、統合開発環境、ソフトウエアの測定ツールなど、必要なコンポーネントのすべてがその上にあり、開発者はコックピット(操縦席)を好きなようにカスタマイズできる。ただ、ここで注目すべきことは、計画、モデリング、必要なものの定義といった作業は開発の10%程度でしかないことだ。残りの90%はデザイン、ビルド、テスト、そして変化への対応を反復することだ。その反復作業を開発者が楽しめるようにしたい。退屈なベルトコンベヤー作業じゃなくてね。

 3~5年先には、より良いコラボレーションを実現したい。人間の集団を改善するようなツール。仕事が無駄になることがないような環境。したいと思うこと、興味があることを個人がやって、それが全体の成功に結び付くような世界だ。8~10年先には、それをソフト開発者だけじゃなく、ビジネスの世界全体に広げたい。

──何か夢みたいな話に聞こえる。
 構造化分析からオブジェクト指向までだって、すごく長い時間がかかった。こういう変化は、アーリー・アダプタ(早期導入者)が最初に現れて、メインストリームが変わるのはずっと先だ。いつものことだよ。

──FDDを含む、開発方法論の現状は。
 デザインとビルドのイテレーション(反復)を行うという点では、同意が形成されたと思う。それ以外の点では、数多くある開発方法論を「レシピ(recipe、料理の調理法を書いたもの)」だと考えて、複数のレシピを学んだ上で、会社やチームに合った独自のレシピを作り上げなさい、というのが私のアドバイスだ。FDDのサブチームによるモデリング、スクラム(SCRUM)のミーティング手法、エクストリーム・プログラミングのテスト・ファーストの考え方、ユニファイド・プロセスのユースケース、いずれも優れたレシピと言える。すべてのレシピについて学び、いいところを少しずつ取り入れればいい。一つの会社で、5種類くらいのレシピを用意するといいだろう。作るソフトの規模、メンバーの才能や経験の程度、メンバーの指向などによって最適なレシピは異なってくるからだ。

──プログラミング言語はこれからどうなると思う?
 FORTRANやCOBOLは50年生き残っているし、これからも生き残るだろう。個人的には、これから広く使われるのはJavaとC#だと思っている。C++よりシンプルだから、というのが理由だ。あ、Pascalもすごく好きだよ。それから、データベース系の言語、PL/SQLなども使われ続けるだろう。

 今「シンプル」という言葉を使ったけれど、これはモデリングの世界でも言えることだね。1990年代はモデリング全盛だったけど、その終わり頃には、よりシンプルなモデリングを目指すようになった。「クラス図が一番大事だ」みたいな具合にね。とにかく、シンプルなのはいいことだよ。

(聞き手は原田 英生=日経コンピュータ)