「これまでは、1日に120万ページ・ビューが想定限界値だった。OSの移行後は150万ページ・ビューまで耐えられるはずだ」。旅行大手のジェイティービー(JTB)で顧客向けWebサイトの運営を手がけるWebトラベル事業部の矢嶋健一研究員は、サーバーOSの移行による効果をこう予測する。

 JTBは、顧客向けWebサイト用Webサーバー7台のOSを「Windows 2000 Advanced Server」から「Windows Server 2003, Web Edition」へ移行した。ハードウエアやアプリケーションを変更せずに、処理能力を向上させるのが主な狙いだ。6月4日に作業を開始し、6月11日に7台すべての移行を完了した。

 処理性能の向上は、OSに付属されたWebサーバー・ソフト「IIS(Internet Information Services)」のバージョンアップによるもの。Windows 2003のIIS 6.0は、Windows 2000のIIS 5.0と比べると「処理性能が1.7倍向上している」とマイクロソフトの田中康信コンサルティング本部シニアコンサルタントは保証する。

 今回OSを刷新した7台のWebサーバーで、特に求められていたのは処理性能だった。顧客がWebサイトから旅行商品を検索・参照するアプリケーションを動作させる必要があるからだ。バックエンドのデータベースには1万件を超える旅行商品の情報が格納してあり、それらを動的に表示する必要があった。

 アプリケーションの移行には、マイクロソフトが提供するWindows 2000からWindows 2003へのマイグレーション・ツールを使った。「ツールを使うことで、移行作業は数秒でできた」と矢嶋研究員は話す。JTBのWebサイトのシステムはグループ会社のサイトも預かっているので、階層構造が複雑になっていた。その上、「中にはソース・コードがないアプリケーションもあり、手作業ではとても難しかった」(矢嶋研究員)。

 JTBは今回の移行にあたり、マイクロソフトの早期導入プログラム「RDP(Rapid Deployment Program)」を利用し、2001年12月からベータ版で検証作業を続けていた。「検証中、常に最新情報が手に入ることがよかった」と矢嶋研究員は感想を述べる。矢嶋研究員は刷新後のWindows 2003の機能や性能にも満足しているが、プロジェクトの進行上一つだけ困ったことがあったという。「製品版の出荷時期が延期になったので、本番稼働日をなかなか特定できなかったこと」だ。

 本番稼働をいつにするかは、JTBにとって大きな問題だった。同社のWebサイトは、夏休み前の7月にアクセス数が急増する。6月中にWindows 2003が出荷されなければ、ピーク時に移行作業をしなければいけなくなる。ピーク時に移行するリスクを考えて本番稼働を延期すれば、現行システムでアクセス数の増加に耐えられない可能性があった。ユーザー企業のJTBとしては、6月中に出荷されることを祈るしかなかった。

 ベータ版でとりあえず本番稼働することもできなかった。ベータ版のIIS 6.0に、キャッシュに関するバグがあったからだ(製品版では修正済み)。マイクロソフトはIISの設定を変更することで、そのバグが発生しないようにする方法を知っていた。しかしマイクロソフトはその方法をJTBに公開できなかった。問題のあった部分は、契約上情報を開示できない個所に相当したからである。同じ理由から、マイクロソフトが直接設定を変えることもできなかった。結局JTBは、本番稼働をするために製品版を待つしかなかった。

矢口 竜太郎=日経コンピュータ