「銀行の勘定系システムは今後間違いなく、オープン系システムに置き換わっていく。その第一歩をNECが踏み出すことができた」。NECの川村敏郎専務は6月10日、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された記者会見の席でこう強調した。同社のオープン勘定系パッケージ「BankingWeb21(BW21)」が、第1号ユーザーである八千代銀行(東京都)で5月4日から稼働したことを受けてのものである。

 BW21の最大の特徴は、UNIXサーバーで勘定系システムを動かしていること。「オープン化に伴い、勘定系の設計思想を抜本的に見直した。オブジェクト指向技術でアプリケーションを部品化、5万個の部品の組み合わせでシステムを構築した。システム開発は米国と中国、インド、日本の4カ国で進めた」(川村専務)。
 
 これだけ挑戦的な取り組みだけに、BW21は稼働の延期や稼働直後のトラブルなど、最後まで産みの苦しみを味わった。八千代銀行の小泉次郎副頭取は延期の理由を、「(1999年4月に)経営破綻した国民銀行の譲受作業(2000年8月完了)が長くかかった。銀行のシステム・トラブルが相次いで起こるなか、慎重を期した面もあった。相対的に完成度の低かった部分やバッチ・システムの強化にも思いのほか時間がかかった」と説明。一方で、稼働後のトラブル(BizTechでの関連記事はこちら)については、「ケアレス・ミスの範疇。利用者にご迷惑をおかけして申し訳ない」と続ける。

 とはいえ、苦労の末に稼働を迎えたことについて、小泉副頭取は「勘定系のオープン化にロマンを感じて取り組んできた。長年の夢がようやくかなった」と感慨深げに振り返る。

 NECは今回の稼働を機に、全国の地銀に対してBW21の営業攻勢をかける。特に、勘定系の再構築で苦戦している地銀に向けて、より積極的に売り込むと見られる。「オープン系技術で勘定系システムを動かしたのは、BW21が初めて。他メーカーの製品よりも5年は進んでいる。20~30行ぐらいは獲得したい」(川村専務)。現時点でBW21の採用を表明しているのは、八千代銀行に加え愛媛銀行、高知銀行、大光銀行(新潟県)、大東銀行(福島県)、トマト銀行(岡山県)、東日本銀行(東京都)、びわこ銀行(滋賀県)、三重銀行の合計9行である。

 ただ、八千代銀行で稼働したBW21が他行がそのまま適用できるとは限らない。銀行によって、勘定系に対する要件が異なるからだ。これについて川村専務は、アプリケーションの部品化が生きてくると見る。「部品のうち、90%近くは共通化に使えると見ている。後続行は八千代銀行の要件と自行の要件を見比べて、異なる10%の部分だけを新たに部品として用意すればすむ。もちろん、部品を無理やり100%共通化するつもりは毛頭ない。各行の戦略に基づき、商品や業務ルールは柔軟に変えられる作りだ」。川村専務は、「100%共通化しようとすれば、銀行同士でケンカになる。メーカーにはけんかの仲裁はできない。ケンカにならないような設計思想を適用することが重要だ」と話す。
 
 八千代銀行の開発費用は約30億円。BW21の利用料金を含めたアウトソーシング費用は、10年間で100億~200億円程度と見られる。NECはBW21の開発に200数十億円をかけた。

(大和田 尚孝=日経コンピュータ)