「公共ITにおけるアウトソーシングに関するガイドライン」は、自治体が共同で情報システムをアウトソーシングする場合を想定し、情報システムの仕様策定、システム・インテグレータとの契約の進め方、SLA締結の進め方などを示した文書。総ページ数は200に上り、契約書のサンプル、プロジェクトの各フェーズごとにすべきこと、業務や情報サービスの種類別にみたSLA評価項目などを、図表を多用して詳細に示してある。50団体の自治体で情報システムを共同利用すると、単独の自治体で構築した場合にくらべ、1自治体のシステム投資コストが75%削減されるといった意欲的な試算もある。開発や運用のアウトソーシングを共同で行う方式を分類し、それぞれの方式のシステム管理方法やメリットを示した表もユニークだ。黒須氏はこの表について、「よくまとまっていてこれ以上の分類はないだろう」と評した。
ガイドラインでは、情報システムの運用状況を定期的に評価する「SLA委員会(仮称)」を設置することも記述されている。第三者による評価の必要性も盛り込んだ。黒須氏は「委員会の設置は評価に値する。ITは陳腐化が早いので定期的にSLAを見直すべき」と語る。「問題は誰が評価をするかだ。ぜひ、サービスを受ける住民も評価する委員会に入れるべき」(同氏)と提案する。
一方で黒須氏は、「このガイドラインは、情報システム部門による情報システム部門のためのガイドラインになっている面が否めない」と指摘する。それは、特にSLAの部分に表れている。「民間企業でもよく陥ることだが、情報システム部門から見たコンピュータの運用ばかりにSLAの力点が置かれている。企業でいえばエンドユーザーや事業目標、自治体でいえば住民が利用してどのくらい利便性を得られたのかといった指標がほとんどない」(同)。自治体は、住民の利便性の指標をSLAに加えるなど、配慮する必要がありそうだ。
さらに黒須氏は、ガイドライン中のSLAの内容で、ペナルティだけを強調している点にも警告している。当初の目標よりも効果が出た場合の、アウトソーシング先への報酬にももう少し配慮すべきだというのだ。「そうしないと単なるベンダーたたきになって、アウトソーシング業者が言われたことだけをやるようになる。硬直化する」(同)。SLAの使い方は、簡単なものではない。