NTTドコモの「iモーション」やKDDIの「ezmovie」といった携帯電話向けの動画配信サービスに、特許ライセンス問題が影を落としている。コンテンツ事業者の業界団体は5月23日、MPEG関連技術の特許管理会社である米MPEG LAに対して、現在のライセンス方針を維持するなら「MPEG-4 Visual技術を使わなくなる可能性がある」と警告する英文レターを送付した。現在、iモーションやezmovieは、動画圧縮技術としてMPEG-4 Visualを採用している。

 これらの業界団体は、モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)デジタルメディア協会(AMD)である。MPEG LAは、機器のメーカーだけでなくコンテンツ事業者からも、今後特許ライセンス料を徴収する方針を示している。この方針に対して、コンテンツ事業者側は反発を強めている。

 今回の英文レターで主張していることは3点ある。一つ目は「日本のコンテンツ事業者は、MPEG LAのライセンス方針を不快に感じている」。二つ目は「MPEG-4 Visualは価値ある技術だが、ライセンス方針をMPEG LAが再考しない限り、次第に使われなくなる公算が大きい」。三つ目は「現在の状況に対しMPEG LAが対策を打つことを強く勧告する。このため同社に対し、MCFとAMDは日本のモバイル・コンテンツ業界の詳細な情報を提供する用意がある」というものだ。


コンテンツ事業者への課金に反発

 MPEG-2の場合、その特許ライセンス料は米MPEG LAがエンコーダ/デコーダ製品を販売するメーカーから徴収し、各特許保有者に分配している。ところがMPEG LA社はMPEG-4について、動画を配信するコンテンツ事業者からもライセンス料を徴収する意向を示しており、ここが議論の焦点となっている。

 MPEG LA社は2002年7月、支払い額に上限を設けるなどと譲歩して,それまでコンテンツ事業者への課金に反対してきた米アップルコンピュータなどを説得。ライセンス方針を最終的に決定したと発表した(発表資料)。しかし、日本のモバイル・コンテンツ事業者の間では、この方針に対し根強い反対が残っている。始まったばかりのコンテンツ配信事業にライセンス料の負担が重荷になる上、ユーザー数や配信時間を正確に把握しMPEG LAに報告するためのシステム投資が必要になるためだ。

 なお、日本の放送事業者はライセンス方針を巡るMPEG LAとの対立が解決できないため、今年に入って同社との交渉を一時棚上げしている。NHKと民放各局は、2005年にも携帯電話などのモバイル機器向けに地上波デジタル放送を開始する意向である。従来はMPEG-4 Visualを動画の圧縮技術として採用する方向で検討してきたが、今では、H.264やMPEG-1など代替技術の採用に向けて技術的検討を進めている。

 MPEG-4 Visualのライセンス問題は、普及し始めたモバイル向け動画配信に対し、通信・放送の両分野で暗い影を投げ掛けている。

(本間 純=日経コンピュータ)