「日本から中国のソフトウエア企業に対する開発業務の委託に限れば、今後5年程度、人件費の上昇はないだろう」。ソフトウエア開発ベンチャー、ビートックの山下伸一郎副社長はこう予測する。

 中国へのソフトウエア開発委託は、開発コスト削減の切り札として注目を集めている。しかし今後は、中国の経済成長に伴い人件費が上昇すると言われており、日本を含む外資系企業にとって心配の種となっている。

 しかし山下副社長は、「最近は日本経済の低迷が長引き、需要が一巡し価格が下落している。またソフトウエア技術者を育成する学校が乱立し、日本語のできるエンジニアに限っても増加の一途だ」と説明する。

 こうした背景から、エンジニア一人当たりの単価は、2002年から2003年にかけて下落しており、「中国国内向けの人件費相場に近づきつつある」(山下副社長)。今後予想される人民元の切り上げについても「可能性はあるが、業務の効率化でカバーできる範囲内で、影響はそれほど大きくないだろう」と山下副社長はみる。

 ビートックは中国業務の統括子会社を、遼寧省大連市に2003年3月に設立。前後して中国のソフトウエア開発企業10社とアウトソーシング業務で提携。中国でのソフトウエア開発業務を本格化した。

 特に力を入れるのが、独SAPのERPパッケージ(統合業務パッケージ)R/3のアドオン・ソフト開発だ。「日本で人月当たり90万~120万円かかる開発コストが、中国なら人月当たり30万円程度まで削減できる」(堀口大典社長)と、中国で開発するメリットを強調する。

 半面、ビートックでは中国ソフト開発のデメリットも認識している。「中国のソフトウエア会社やエンジニアは優秀だが、プロジェクトマネジメントはまだ国際水準に達していない」(山下副社長)と手厳しい。

 ビートックは提携会社の選定にあたり、数千社あった中国ソフト会社のリストから50社をピックアップ。同社経営陣が50社すべてを訪問し、10社に絞り込んだという。さらに「中国側のマネジャだけでなく、個々のエンジニアに対しても、インスタント・メッセージ(IM)やネット会議システムを使用して、絶えず連絡を取る」(山下副社長)という徹底した姿勢で、日本企業の高い要求水準にこたえる方針だ。

金子 寛人=日経コンピュータ