米アドビシステムズのブルース・チーゼン社長 米アドビシステムズのブルース・チーゼン社長兼最高経営責任者(写真)が文書作成・管理ツールの新版「Acrobat 6.0日本語版」の発表会に合わせて来日し、5月15日に日経コンピュータ記者との会見に応じた。インタビューの要旨は以下の通り。

──米アドビシステムズの業績は2000年度がピークで、その後2年は売上、利益ともに減少している。手は打っているのか。
 まず、ソフトウエア産業全体が厳しい状態にある中で、我々は比較的うまくやっているということを強調しておきたい。我々はずっと利益を出しているし、2002年度(2002年11月期)の売上高11億6500万ドル(約1350億円)、利益1億9140万ドル(約222億円)は決して小さな数字ではない。直近の2四半期は、売上高が前年同期比で11%伸び、利益も17%と9%増だ。

 我々はすごくうまくやれるようになってきている。伸びているのは我々が「ePaper(電子の紙)」と呼んでいる分野で、具体的な製品は、Acrobat、Document Server、Form Server、Output Server、Workflow Serverなど(本誌注:Form Server、Output Server、Workflow Serverは2002年に買収したAccelio社の製品系列を継承したもの)。エンタープライズ(大企業)や政府が文書の流れをシステム化するのに使うものだ。

──アドビはページ記述言語PostScript、ドロー・ソフトIllustrator、画像処理ソフトPhotoShopなどの印象が強く、企業の情報システムとは無縁の存在かと思っていたが。
 そんなことはない。アドビは1982年に創業し、最初はクリエイティブなプロフェッショナルのためにPostScriptで信頼できる印刷を実現することを目指した。これが我々の最初の顧客だ。IllustratorやPhotoShopといったソフトを作るうちに、プロとは言えない一般ユーザーにも信頼できるソフトが求められていることがわかってきた。それが第2の顧客。エンタープライズや政府は我々にとって第3の顧客と言える。

 企業が成長するためには、新しい顧客に到達しようとする試みが欠かせない。変容(transformation)が欠かせない。ホンダだってそうだろう。ホンダのことを我々米国人は最初は芝刈り機の会社だと思っていた。その後、二輪車の会社というイメージができ、今はみんなが自動車の会社だと思っている。新しい顧客へのアプローチは成長へのてこ(leverage)のようなものだ。

──企業の文書管理システムは、米マイクロソフトも今秋発売のOffice 2003やSharePoint Portal Serverなどの製品で狙っている。彼らと戦うつもりか。
 ドキュメント・ワークフローのシステム化を狙っているという点では、我々とマイクロソフトは同じである。ただ、MS OfficeとAcrobatのどちらか一つを選ばなければいけないというわけではない。我々にしかできないソリューションというものがあるだろう。マイクロソフトのやり方は、均質な(homogeneous)環境では理想的だ。ある会社でみんなが同じOSと同じバージョンのOffice製品を使っていて、それ以外の世界と文書のやりとりをしないなら、本当にうまくいくはずだ。でも現実はそうではない。ファイアウォールの向こう側に顧客やビジネス・パートナが存在し、その人たちと信頼性のあるやり方で文書をやりとりできなければならない。

 我々の強みは「Adobe Reader(Acrobat Readerと呼ばれていたものを今回改称)」だ。Readerは、あらゆるOSの上で、あらゆるデバイスの上で動く。Readerは料金を払わずに利用できるから、顧客やビジネス・パートナにソフトウエアを買ってもらう必要もない。Readerは文書システムの理想的なプラットホームだ。

──企業システムでは顧客の要望に応じた開発作業が欠かせない。マイクロソフトの強みはOfficeとVisual Studioが開発者に受け入れられていることだ。アドビはそこが弱い。
 開発者向けという分野で、我々が良い仕事をしてこなかったことは認識している。しかしこれからは違う。年内に開発ツールを製品化しようと考えている。今詳しいことは話せないが、XMLと電子的な文書を扱うものになる。

 ソフト開発に携わる他社との提携も進めている。独SAPや米IBMのDB2 Content Manager部門、文書管理の米Documentumなどだ。マイクロソフトは世界中に多くの競合相手を持っている。マイクロソフトより当社と組むことを好む企業も多い。

──企業システムを狙うとなると、日本は米国と違いが大きいと感じるのではないか。
 コンシューマ・ビジネスなら日米共通とは言えないけどね。でも確かに、企業向けビジネスはさらに違いが大きい。一番感じるのは、システム・インテグレータの地位だ。西欧ではソフト・ハウスと顧客の関係が密接で、システム・インテグレータは少し枠の外にいる。日本では、顧客がインテグレータをとても信頼しているので、我々もインテグレータとの協力を重視しなければいけない。2番めは、紙ベースのワークフローが違うことだ。印鑑(hand stamps)はそのいい例だろう。我々の製品にはその機能を取り入れている。日本は我々にとって、米国に次ぐ大きな市場だ。私も頻繁に訪れるようにしている。

(インタビュアーは原田 英生=日経コンピュータ)