「メインフレーム文化で育ったコンピュータ技術者は、“レガシー”などと言われている。だが、そのような言葉にひるむ必要はまったくない。いまの日本のIT業界を救えるのは、むしろこうした人たちの知識やノウハウだ。自分たちの持つ価値に自信を持ってほしい」。リスク・マネジメントやプロジェクトマネジメントなどのコンサルティング・サービスを提供するクロスリンク・コンサルティングの拜原(はいはら)正人社長は、ベテラン技術者にこうエールを送る。

 拜原社長自身、元メインフレーム技術者である。1970年に日本電信電話公社(現NTT)に入社し、同社製メインフレーム「DIPS」の開発や、DIPSを使った大規模システム構築のプロジェクトを担当した。「30数年メインフレームとかかわったことで、ハードウエアからネットワーク、OS、ミドルウエア、データベース、システムの維持管理、プロジェクト管理に至る、コンピュータ・システム全般の貴重な経験を得ることができた」と拜原社長は話す。

 このようなベテランのノウハウが若手のエンジニアに正しく継承されていないことに、拜原社長は危機感を抱く。「ある企業の若手向けの研修で『待ち行列理論を知っているか』と聞いたら、返事がなかった。我々の時代は常識だったことが、そうでなくなっている。研修ではメインフレームやウォータフォール型のソフト開発プロセスの話を必ずしている。それらはレガシーであっても“基本”だからだ」。

 クロスリンク・コンサルティングは今年1月に設立、4月に本格的に活動を始めた新会社。拜原社長をはじめとする主要スタッフ10人のうち、マーケティング担当を除く9人はメインフレーム経験の持ち主。同社が得意とするのは、問題が生じたシステム構築プロジェクトの“火消し”を行うクライシス・マネジメントである。「メインフレーム文化で得たシステム構築の基本と、RUP(Rational Unified Process)やアジャイル開発などの新しい開発技術の双方を知っているのが我々の強み。過去40近いクライシスを経験してきた自分も現場に出ている」と拜原社長は話す。

 ITプロジェクトに問題が生じる背景には、三つの大きなギャップがあると拜原社長は主張する。一つ目は「ビジネスとIT」。次に「顧客とシステム・インテグレータ」。もう一つは「ベテランと若手」だ。「我々がやりたいのは、これら三つのギャップのかけ橋を務めること。特に重要なのは、世代のギャップを埋めることだ」(拜原社長)。

 そこでクロスリンク・コンサルティングはサービスを提供する際に、問題を発見する『カウンセリング』、問題を解決する『コンサルティング』に加えて、現場に参加して顧客やインテグレータにノウハウを提供しながら問題解決を実践する『コーチング』を実施している。「自分たちの経験を生かして、日本のIT業界が少しでもよい方向に進むよう貢献したい」と拜原社長は意欲を見せる。

田中 淳=日経コンピュータ