松下電器の櫛木常務 「Linuxはソース・コードが公開されており、世界中の多くの会社、多くの人が知識を持っているグローバルなOS。世界中で出荷する家電やモバイル機器などのグローバル商品に使いやすいのが魅力だ」。日経コンピュータの取材に応じた松下電器産業の櫛木好明 代表取締役常務は、自社製品へのLinuxの採用に意欲を見せる。

 松下電器は昨年12月に、ソニーとデジタル家電向けLinuxの共同開発で合意したと発表。日立製作所やシャープ、米IBM、オランダのロイヤル フィリップス エレクトロニクスなどの大手を巻き込んで、デジタル家電のLinuxフォーラムを設立する検討を始めたことも明らかにしている。

 このLinuxフォーラムに関して櫛木常務は、「順調にフォーラムを形成しつつある。まずはステアリング・コミッティ(運営委員会)を発足させて、Linuxフォーラムの運営の仕方などを詰めていく」と語った。本誌の取材では、松下電器やソニーをはじめとする十数社が5月中にも、Linuxフォーラムの正式な設立を発表するとみられる。

 櫛木常務はLinuxがグローバル商品に適するとする理由を次のように語る。「例えば日本とヨーロッパではデジタル・テレビの規格が違う。DVD機器も世界共通仕様の上に、各国語対応の作業がある。このような異なる部分の開発は、海外仕様に合わせて個別に実施しなければならない。この時に、世界共通のLinuxだと海外でもエンジニアを確保しやすい」。松下電器は、海外仕様にかかわる部分の開発を、基本的に海外約20カ所にある開発センターで行う考えだ。

 ただし現状では、松下電器グループの家電やAV機器、モバイル製品などの大半は、TRONベースの組み込みOS「マイクロITRON」を使用している。櫛木常務は、デジタル家電の分野では『TRONとLinuxの併用』が主流になることを示唆する。「確かに、マイクロITRONの利用実績は多いが、TRONにはネットワーク機能が弱いという問題がある。その部分をLinuxで補完するといった形で、TRONとLinuxを併用するケースが多くなると考えている。実際、出荷済みのデジタル・テレビでは、両OSを採用している」。

 櫛木常務は家電だけでなく、携帯電話やPDAといったモバイル機器にもLinuxを採用していきたいと話す。「現在マイクロITRONを採用している携帯電話も、PDA機能を組み込むことなどによって、機能がますます高度になる。特に3G(第3世代)以降の携帯電話には、Linuxの採用を考えていかなければならないと思っている」。

 マイクロソフトは先月、組み込み向けOSであるWindows CEのソース・コードを95%開示し、ソースの改変も許諾する方針転換を行った。このことについて、櫛木常務は「組み込み分野は、もともとソース・コードがないと個別製品に合わせた微妙な開発ができない。マイクロソフトの方針転換は、やっと当たり前の状態になったなと、冷静に見ている。とくにマイクロソフトの方針変更を受けて、判断を変えるというようなことはない」としている。

井上 理=日経コンピュータ