北海道大学の田中譲教授 「これが“リベンジ”だなどとは考えていない。自分の主張は15年前から首尾一貫している。Webをはじめとする周りの環境が整い、やっと私の考えが当たり前になったということだ」。北海道大学で知識メディア・ラボラトリー長を務める田中譲教授(写真)は、穏やかに語った。4月10日に行われた、メタソフトの3次元Webコンテンツ編集ツール「MeMeComposer(ミームコンポーザ)」と「MeMeEditor(ミームエディタ)」の発表会でのことだ。

 田中教授は、「IntelligentPad(インテリジェントパッド)」と呼ぶソフトウエア技術を考案したことで知られている。IntelligentPadは、Padと呼ばれるソフト部品をビジュアルに重ね合わせていくことで、アプリケーションやコンテンツを作成できるオブジェクト指向の開発・実行環境である。富士通や日立ソフトウェアエンジニアリングが1990年代中ごろに製品化を手がけた。94年には日経BP技術賞大賞も受賞した。

 しかし、IntelligentPadはビジネス・アプリケーションの分野では普及しなかった。IntellgentPadが製品化されたのは、ちょうどクライアント/サーバー・システムが注目されていたころ。マイクロソフトのビジュアル開発ツール「Visual Basic」などとともに、クライアント側のGUIアプリケーションの構築を効率化する開発ツールの一つとしてとらえられてしまい、結局シェア争いに巻き込まれた。

 田中教授は「当時からIntelligentPadが目指しているのは知識の流通や再利用だと主張してきた」と強調する。「あらゆるデジタル・メディアを欲しいときに欲しい形で入手して自由に加工して使い、それを再利用可能な形で流通させるということを誰でも手軽にできるようにしたいと考えていた。ところがIntelligentPadは『ビジュアル・プログラミング・ツール』として、ソフトウエア開発の側面ばかりが強調されてしまった」。

 今回、メタソフトが4月末に出荷するMeMeComposerとMeMeEditorはどちらも、基本的なメカニズムはIntelligentPadと同じ。違うのは3次元のデータを扱えることと、Webを通じてコンテンツを自由に流通できる点だ。XVLやVRML、DXFなどの形式で書かれた3次元の形状データに、MeMeComposerやMeMeEditorが用意する部品(機能ボックスと呼ぶ)を重ね合わせると、その形状データに「回転する」、「伸び縮みする」といった性質を“与える”ことができる。このような操作を繰り返すことで、3次元のコンテンツを手軽に作成できる。作成したコンテンツはWebブラウザ(Internet Explorer)上で表示できる。

 MeMeEditorは約30種類の機能ボックスを提供。MeMeComposerは80種類以上の機能ボックスのほか、Visual BasicやVisual C++などで作成したアプリケーションからコンテンツを呼び出して使えるようにするAPIを備える。「電子マニュアルや電子カタログ、教育などが用途として考えられる。印刷業界の販売パートナも募っていきたい」とメタソフトの吉田泰久代表取締役は話す。開発は北大知識メディア・ラボラトリーに加えて、シーズ・ラボが協力した。

 料金は、製品の使用時間に応じた課金という形をとる点もユニーク。MeMeEditorは1時間あたり5000円、MeMeComposerは同1万円。パルティオソフトのソフト電池を使用し、プリペイドで購入した電池の分だけ利用できるようにする。

田中 淳=日経コンピュータ